持続可能な社会・農業探る――放牧・自給飼料で日本型畜産を 生消研がシンポ2021年3月17日
「食糧の生産と消費を結ぶ研究会(生消研)は3月13日、オンラインで研究会を開き、「2030年に向けた持続可能な社会をめざして」のテーマでシンポジウムを行った。(一社)持続可能な地域社会研究所の藤山浩所長、酪農学園大学の荒木和秋名誉教授が、それぞれ「環境共生圏の創造」、「日本型畜産の展望」について話した。
地方都市へ人口が移動
人口移動で縁辺革命
持続可能な地域社会研究所(島根県益田市)の藤山所長は、最近、田園回帰と縁辺革命が起こっていることを指摘。つまり大都市から縁辺部の中小都市への人口の取り戻しがみられる。2014年~19年の人口の社会増減率(5~69歳、自然増は除く)をみると、「減少」の1286市町村に対し、「増加」が443市町村となっている。また30代の女性が増加したのは631市町村で減少が1098市町村あり、人口は減っても出産年齢である女性が増えている市町村のあることが分かる。
藤山所長は、ここに縁辺革命をみる。「過疎地域は、これ以上人口を減らさないため、人を含め、出て行ったものを取り戻す必要がある。人口や所得の1%でよい。それが人口の減少を防ぎ、域内経済の循環につながる」という。
全国過疎指定市町村で人口を増やしているは、トップが北海道の占冠村(36.0%)で、知夫村(島根県・26.3%)、赤井川(北海道・21.5%)と続く。このほか、上位は鹿児島、沖縄、新潟、山梨県などが占める。女性の増減率も三島村(鹿児島・179.3%)、知夫村(島根県・145.4%)、赤井川村(北海道・72.6%)などが上位にある。
藤山所長は、森を活かしたむらづくり、旧小学校校舎を基点にした女性の起業が進んだ岡山県の西粟倉村、地区別に戦略をたて人口増加のための具体的な取り組みをしている島根県の横南町、宮崎県の美郷町などの事例を挙げ、2020年代を「地元から世界を創り直す時代」と位置付ける。
放牧による持続可能な日本型畜産
トウモロコシ自給で
酪農学園大学の荒木名誉教授は、輸入飼料依存の加工型畜産になっている日本の畜産に危機感を示し、その解決策の一つとして子実トウモロコシの自給による日本型畜産のあり方を北海道の酪農で示した。
まず同教授は、日本の家畜疾病の増加を問題視する。乳牛では、牛伝染性リンパ腫や循環器病、運動器病などが増えている。その原因の一つとして、大規模化によって、乳牛の観察や病牛に対する看護が疎かになっていることがある。一方で、世界的にアニマルウェルフェアが唱えられ、工場式畜産からアニマルウェア畜産に転換しつつあり、それに合致する飼育方式として、同教授は「放牧」を挙げる。
北海道足寄町の新規就農者の放牧酪農技術実践モデル事業で、平均38頭の5戸の酪農家が、飼料自給によって経営費を2025万円に抑え、北海道平均(飼育頭数88頭)の約7700万円の3分の1となっていることを紹介。その結果、所得は北海道平均1695万円に近い、1370万円を上げている。このほか、経産牛の寿命が1.4倍延びることなどの利点を挙げる。
そのためには経営費のなかで割合の高い濃厚飼料の自給が欠かせない。同教授は残さのすき込みで地力がつき、農薬・肥料代のコストがかからず、既存の農機が使えることなどから子実トウモロコシの栽培を提案。国土保全、コスト削減、新規就農者の確保、農家数の維持、地域社会の維持につながる放牧と、自給飼料による日本型畜産を持続可能な食料生産システムとして提唱した。
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