鳥インフルの全羽殺処分回避へ鶏舎分割管理の動き 東北の大規模養鶏場で導入 農水省はマニュアル作成へ2023年5月10日
鳥インフルエンザが猛威をふるい、今シーズンの殺処分数が過去最多の1770万羽に上る中、養鶏場を分割管理して鳥インフルが発生しても全羽が殺処分される事態を回避しようという動きが出ている。昨年12月に国内最多の139万羽の処分をした東北地方の養鶏場では農場を3分割して再開を目指す。農水省も都道府県担当者を集めた会議で分割管理について説明し、今年秋までにマニュアルを作成する方針を示している。
過去最多の1771万羽処分 リスク分散の検討求める声
農水省のまとめによると、今シーズンの鳥インフルエンザは26道県で84事例発生し、過去最多となる約1771万羽が殺処分された。1農場で100万羽単位の鶏が処分されるケースも相次ぎ、今年1月には北海道東北地方知事会が、鶏舎単位で殺処分ができるよう大規模農場のリスク分散などの検討を農水省に緊急要望した。
こうした動きも踏まえて農水省は4月20日、都道府県の担当者を集めた全国家畜衛生主任者会議で、農場の分割管理に言及した。この中で担当者は、今年1月の専門家による会議で、「例えば、施設及び飼養管理を完全に分けることにより農場を複数に分割し、別農場として取り扱うことについては、現場で検討しうる」との内容が示されたことを紹介するとともに、農場の分割管理のイメージを示した。
車両消毒や出入口などの動線を分けた農場の分割管理イメージ(農水省資料より)
この図をもとに、車両消毒や出入口、作業員などの動線を明確に分けて防護柵などで敷地を区切り、飼養衛生管理を一体的に行っている範囲を1つの農場とすることで、分割された農場の範囲で殺処分を実施することが可能であることなどを説明した。
青森県の大規模養鶏場は農場を3分割管理で再開へ
こうした中、万一鳥インフルが発生しても農場全体の殺処分を回避しょうと、分割管理を導入する動きが出ている。青森県三沢市の養鶏業「東北ファーム」は、昨年12月に鳥インフルの発生で139万羽の殺処分を余儀なくされた。再開にあたって農場を3分割して管理する計画を進めている。
同社によると、旧式の鶏舎を除いた31棟の鶏舎で約120万羽を飼養する計画。約40万羽ずつ農場を3分割する方針で、6月から雛の導入を始め、11月ごろから本格的な再開を目指したいとしている。同社は「万一感染した場合に全羽処分となることを避けるために費用はかかるが分割管理の導入を考えた。まず既存の人員で対応しながら必要に応じて増員も考えていきたい」と話している。
自治体は「まず経営者判断」 農水省はマニュアル作成へ
自治体は、分散管理に関心を示しつつも事業者への負担が伴うため慎重な姿勢も示す。青森県畜産課は「分散管理するかどうかは経営者の判断だが、可能な範囲でサポートを考えたい」と述べるにとどまる。三沢市の養鶏場の分散管理については「検査などは県が行うことになり、事業者の提案内容を確認し、国とも相談しながら適切なアドバイスに努めたい」と話している。
また、採卵鶏の飼育数が全国一で、今シーズン6農場で合わせて400万羽以上の殺処分が発生した茨城県畜産課は「分散管理には相当の初期費用がかかり、100万羽単位で飼養する養鶏場のメリットもなくなることから、県として積極的に進められるものではないが、相談があればきちんと対応していきたい」と話す。
農水省も基本的には同様のスタンスだ。分散管理するうえで、車両消毒や鶏舎を分ける柵の設置などについては、国の消費・安全対策交付金で半額を補助する制度もあるが、事業者にかかる負担は重い。それでも鳥インフルが猛威をふるう中、全国から10件近くの問い合わせや相談が寄せられているという。こうした関心の高まりを受けて今年秋までにマニュアルを作成する方針を示している。
同省動物衛生課は「飼養管理を完全に分けた場合に分散管理を認めるという国の対応は以前と変わらない。鳥インフルの発生のリスクを考えて分割管理をするか、防疫対策の徹底をするかは事業者が判断することだが、農水省として、次の流行シーズンまでには分散管理の内容をわかりやすく示すマニュアルを作成したい」と話している。
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