基本計画 自給率以外の目標設定を 学術会議シンポ2024年2月8日
日本学術会議農業委員会・食料科学委員会は2月3日に一般公開シンポジウム「食料自給率の動向と見通し」を開いた。シンポでは農林水産省の杉中淳総括審議官が、肥料など食料自給率に反映されない生産資材の安定供給など、今後の基本計画では自給率目標以外の数値目標の設定と検証の必要性を指摘した。
日本学術会議のシンポジウム
杉中総括審議官は食料自給率の変動要因についての分析結果を報告した。
それによるとカロリーベース自給率が40%だった1998年と比べると2022年度は38%で▲2.8%となった。要因をみると、大豆や小麦の生産増加、輸出用の米、牛肉など国内生産の増加でプラス1.9%となったほか、油脂類や砂糖の消費減少で0.8%の自給率上昇に寄与した。合計で2.7%のプラスとなる。
一方、米、魚介類、野菜の国内での消費減少と、果実やイモ類など国内生産の減少であわせて5.4%の自給率引き下げ要因となった。さらに畜産物の消費は増えたが、国内生産が追いつかず輸入が増えたため自給率引き下げ要因となった。その結果、引き下げ要因は5.5%となり、全体では▲2.8%となった。
自給率の変動要因としては国内生産の増減より、国内消費の変化のほうが影響が大きいことが示され、「近年ではその差がさらに拡大している」と指摘した。
一方、国内消費の変化のなかで栄養バランスがどう変化したかを分析すると、タンパク質は不足傾向、脂質は過剰傾向であり、炭水化物は米の消費は落ちているものの適正範囲内となっている。
品目で食生活の変化をみると、肉類の摂取量は全世代で増加しており、とくに高齢者では増加傾向が顕著であることが示されたほか、穀類は全世代で減少傾向で今後も減少トレンドが続く見込みだという。
こうした分析を踏まえて杉中氏は食料自給率には国内生産と消費の変化の両方が影響しており「食料自給率だけで適切な政策評価が行えるのか」と提起し、望ましい消費の姿と消費政策が自給率に与える影響なども検討する必要があるとした。
また、肥料やエネルギー資源などにも数値目標を設定するなど、自給率以外の数値で食料安全保障の現状を定期的に検証する仕組みの必要性も改めて強調した。
東大農学生命科学研究科の小嶋大造准教授は「食料自給率の検証と評価」を報告した。
小嶋氏は過去の基本計画で掲げた品目ごとの生産努力目標と消費見通しを検証した。その結果、小麦や大豆のように目標値が概ね達成できた品目がある一方で目標値が実績値を大幅に上回る値に設定されている品目もあった。小嶋氏は食料自給率目標の設定は、過去の実績をふまえたより現実的な数値とする必要があると指摘した。
ただ、食料自給率には「そもそも、この水準を超えていれば問題ないというミニマムの水準がない」ことや、カロリーベースの向上だけ追求すると栄養バランスを損なう恐れもある数値だとして「食料自給率はあくまでも国内の食料供給の姿を捉える1つの指標」という位置づけが適切と話した。
東大農学生命科学研究科の中嶋康博教授は「食料自給率はなぜ下がったのか?」をテーマに報告した。
中嶋氏によると戦後は人口増大で食料消費が増大したが、生産のために農地不足で食料の海外依存が定着していった。ただ、1990年以降はバブルの崩壊で国内消費が低下し、価格は低下、それによって収益が低く国内生産が減少した。消費の低下に供給が同調してしまい、さらに農業への投資意欲も低下するという悪循環に陥った。それによって自給率低下に歯止めがかからなかたと分析した。
こうした悪循環を好循環に転換するには、景気回復による賃金上昇など、経済全体の回復で農産物価格を上げられるなど、農業が儲かる構図にしなければならないが、すでに農業者は大幅に減少する見込みとなっている。
一方で食料の海外依存をこれまでと同じように続けられるかリスクが高まっているなか「国内供給力の強化は課題」と中嶋氏は指摘し、生産力の向上にはスマート農業の導入が鍵でそのための投資が必要だとした。
参加者からは自給率向上のために水田を利用した飼料作物の増産の必要性と、それを耕畜連携によって取り組むことの需要性なども指摘された。
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