農政 シリーズ詳細

シリーズ:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

【梶井 功 / 東京農工大学名誉教授】

2013.05.13 
(73)ごまかしの「聖域」論は許さない一覧へ

・国会決議の重みを無視?
・米国議会は全品目が対象と強調

 のっけから新聞記事の引用で申し訳ないが、4月27日付日本農業新聞の記事を引用させていただく。こういう記事である。
 "甘利TPP担当相は26日の参院予算委員会で、環太平洋連携協定(TPP)交渉で守るべき「聖域」について「現時点で特定はしていない」と述べた。「交渉の作戦上も、表現の幅を持って臨んでいく」との方針を示し、今後も具体的に特定しない可能性を示唆した。(中略)
 社民党の吉田忠智氏(比例)が「聖域」の具体的内容を追求。甘利担当相は「『聖域』は交渉を通じて広範な判断の下に収れんさせていくものだ」と、何を「聖域」とするかは交渉のなかで判断するものとの考えを示した。(後略)"
 TPP交渉での「聖域」については、私たちは、3月14日の自民党外交・経済連携本部TPP対策委員会の「TPP対策に関する決議」が"特に、自然的・地理的条件に制約される農林水産分野の重要5品目やこれまで営々と築き上げてきた国民皆保険制度などの聖域(死活的利益)の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとする"としていたことから、自民党の先生方にとっては「特定」されているものと考えていた。この党決議をその党から出ているTPP担当大臣が無視しようとしているのである。

◆国会決議の重みを無視?

 自民党だけではなく、4月18日の自民・公明・民主、生活、緑の風5党共同提案の参院農林水産委員会決議「TPP交渉参加に関する決議」もTPP交渉で“実現を図る…よう強く求める事項”の第1に“米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外または再協議の対象とすること”をあげ、第6で自民党TPP対策委の先の決議とまったく同じ文章を掲げていた。
 4月19日の衆院農林水産委員会の決議「環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題に関する決議」も同様である。衆院農林水産委員会で、その決議が採択されたとき、“与党筆頭理事の自民党の宮脇光寛氏は「今回の決議は党の議員連盟の決議を踏まえて議論を重ねてきたものだ。多くの国民や議員の思いが凝縮されている。それを踏まえて政府は交渉にあたってほしい」と語り、与野党が連携して国会で決議した重みを強調した”(4・20付日本農業新聞)そうだが、甘利TPP担当相の発言は、“国会で決議した重み”など問題にもしないことを意味しよう。これはどういうことか。

◆米国議会は全品目が対象と強調

 自民党が“脱退も辞さないものとする”と決議したのは、“オバマ大統領との会談により、TPPでは「『聖域なき関税撤廃』が前提」ではない、ことが明確になりました“(日米首脳会談後の記者会見での安倍首相の発言)としてTPP交渉参加へ前のめりになっている首相の姿勢に対する不安感、本当にそれで聖域は守られるのか、という強い疑念が自民党の先生方のなかにもあったからであろう。
 seri1305131201.gif その不安は、4月25日現実のものとなる。この日、アメリカ政府の通商代表部(USTR)は、日本のTPP交渉参加を認める意向をアメリカ議会に通知、議会の承認を得る手続きに入ったが、その通知には“日本が農産品と工業製品を含む全品目を交渉の対象とし、高水準で包括的な協定を年内に完成させると確約した”と書かれており、「聖域」を容認したような文章は一切ないし、それを匂わせるような文章もない。日本農業新聞は、USTRが米議会に通知した文書のポイントを上表のようにまとめていたが、日米協議でアメリカが得たもの――日本側の一方的譲歩――については、如何にも当方の勝利といった調子で書き込まれているが、日本の「聖域」の主張についてはなんの記述もなく、逆に日本が“農産品を含む全物品を交渉対象にすると確認”したことが記されていることに注目すべきだろう。「聖域」をアメリカ政府は認めていないということである。
 議会への通知後、日本のTPP参加反対の「TPPを考える国民会議訪米団と会ったUSTRのカトラー副代表は、重要品目の扱い方について交渉対象からの除外はあり得ず、“長期間かけた関税撤廃やセーフガード(緊急輸入制限措置)が選択肢としてあることを代表団に語ったという(4・26付日本農業新聞)。この“長期間かけた関税撤廃”は、自民党3・14TPP対策委員会決定のもとになった対策委第4グループが“除外又は再協議”は求めるが“10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も認めない”としていた問題である。
 甘利TPP担当大臣は、「聖域」は認めないアメリカの方針を、こうしたことを我々が知る以上に、熟知しているのではないか、いや、我々が知る前から知っていたのではないか。その上でのごまかし論議を始めているのではないか。こういう党決定無視のごまかし「聖域」論を自民党の先生方は許すのだろうか。

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