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農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

(117)自給力をどう高めるのか? 2017年7月6日

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梶井 功 東京農工大学名誉教授

 前回は、今年度の白書が冒頭の特集で"国会で審議中の法案を前提に改革のPR"に重点を置いた白書になっていることを問題にしたが、今回は本体の「動向」のところで2つだけ問題にしておきたい。
 1つは第1章第1節の終りに近いところで"将来における世界の食料需給には不安定要素が存在するため、平素から我が国の食料自給力の維持向上に努める必要があります。特に、農地については、担い手に対する集積・集約化と荒廃農地の再生を進めること...が重要"としていることに関してである。
 もう1つは第3節の(2)総合的な食糧安全保障の確立に向けた取り組みのところで"輸入先を特定の国に頼ることで、自然災害等により生産量が大きく減少するなどのリスクが大きくなります。食料の安定供給の観点からは、調達先を分散しておく必要があることから、調達先の多様化を図るための輸送ルートの確保...等について海外と連携して取り組むことが重要です"。としていることに関わってである。

◆荒廃農地の分析が不足

 第1章第1節は"食料・農業・農村基本計画における目標等と現状"と題されており、ここで食料自給率、自給力問題が扱われているが、問題にしたいのは、自給率が39%で横這いなのに自給力は"低下"の一途を辿っていることへの対策がほとんどないことである。特に"農地については、担い手に対する集積・集約と荒廃農地の再生を進めることで、その有効活用を図っていくことが...重要です"と指摘しているだけで、荒廃農地がどこにどれ位あるのか、"再生を進める"にはどういう対策が必要なのか、何もふれていない。
 荒廃農地がどれ位あるかは、第1章の前の特集のセンサス分析で図示されてはいる。"再生を進める"ことが"重要です"というのなら、せめてこの図の所在ぐらいは念を押しておくべきだろう。
 ところでその図は、センサス分析をいっていながらセンサスから作られた図ではないことを注意しておこう。センサスにそれに相当する資料が無いというのではない。耕作放棄地としてセンサスは示しているが、荒廃地と共通した性格をもっているとしていいと思うのだが、センサス分析と称しながら何故センサスの数字を使わなかったのか、説明しておくべきだろう。
 センサスの耕作放棄地面積と図示された荒廃農地面積を地域別に比較すると次のようになる(図示されていた荒廃地面積は全国数字だが、農水省資料によって地域別に示す)。

自給力をどう高めるのか?

 耕作放棄地面積の方がはるかに多いいこと、然しそれは全国一様ではなく、非常に大きな地域差をもっていることに注目すべきだ。荒廃面積率が全国最高の山陰は耕作放棄地率では南関東より低くなっている、といった地域差がどうして生ずるか、そういう点の吟味をしてこそ有効な施策も生れよう。白書の分析不十分を問題にしたい。

◆食料安保をどう確立?

 "供給熱量ベースで6割の食料を海外に依存"し、然も"特定の国への依存度が高い状況"下で、"輸入先を特定の国に頼ることで、自然災害等により生産量が大きく減少するなどのリスクが大きくなります。食料の安定供給の観点からは、調達先を分散しておく必要がある"ことを白書は指摘しているが、それは、確かにそうだろう。それへの対策をとることの必要性は否定しない。そして"食料安全保障の確立"という観点から、これからのWTO"農業交渉においても、引き続き「多様な農業の共存」を主張し"ていくことを改めて確認したことを、私は大いに評価したい。
 が、同時に、最大の輸入依存国アメリカに輸出管理法があり、そのなかに食料農産物輸出を外交戦略の武器に使うことが明記されていることを忘れてはならないことを強調しておきたい。
 「大統領が外交目的の遂行と国際責任の充足のため農産物の輸出制限が必要とされると決定するとき、または輸出制限が国の安全保障のために緊要である場合には例外的措置が採られ得る」とあるのがそれだが、この条項の存在に早くから注目して、アメリカからの大量の穀物輸入を行っている現状は「単に物量的にアメリカに依存しているだけでなく制度的にもアメリカに従属しているのです」といったのは元農林事務次官小倉武一氏だが(「著作集」第八巻282ページ)、昨今の農水省の方々はどう考えているのだろう。"食料安全保障の確立"の観点から、輸送ルートの確保や輸送インフラ整備"といった当面の問題を超えて農産物貿易のあり方をもっと真剣に検討してほしい。

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