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シリーズ:田代洋一・協同の現場を歩く

2019.08.28 
【田代洋一・協同の現場を歩く】耕作放棄対策にたちあがったJA 【山形県鶴岡市・あつみ農地保全組合】一覧へ

◆山に戻る田んぼ...

山形県旧温海町 地図で見ると旧温海(あつみ)町が所在する庄内平野と村上市との間は海岸線まで山が迫っている。その山に向かってあつみ町の水田600haが散在する。多くは減反前の開田で、沢水を使った10a未満の田んぼだ。
 平成に入った頃から山間部の休耕田が目立ち始め、10年頃には近くまで拡がってきた。
 組合の統括管理部長を務める佐藤昌幸さん(45歳)は、永らく営農指導員として巡回指導してきた田んぼが山に戻っていくのを見るのはつらかった。
 何とかして欲しいという地元からの要望もあり、農業委員会が農地パトロールに取り組んだが、復旧には至らなかった。そこでJA庄内たがわのあつみ支店に準備委員会が設置され、農協理事、行政の支所長、生産組合長会、認定農業者会、女性部、青年部の代表等が2年間検討し、2014年にあつみ農地保全組合が立ち上げられた。
 農協が100万円のうち94%を出資する株式会社のかたちにした。出資の残りは生産組合長等6名が行った。
 取締役は、地元の農協理事がトップを務め、野菜担当の70代の女性、ソバの受託をしている60代の男性の3名である。佐藤さんはJAからの出向になり、最初の5年間は農協が給与の半分を負担した。常勤はもう一人、庄内出身の元・地域青年協力隊員29歳で、農の雇用事業の2年目になる。

「休耕田の管理おまかせください!!」
 組合は地域にこのような呼びかけを行っている。経営面積は、2014年22ha、15年31ha、17年44haと増え、現在は51ha程度である。田んぼの所在は、設立の趣旨からして町内一円に分散する。これが最大の特徴であり、ネックである。地権者は総勢200名程度になる。
 その半分は利用権の設定で期間は10年、残り半分は特定作業受託だ。利用権は機構を通じているが、圃場が分散しているため地域集積協力金の対象にならないのが痛い。両方とも小作料は、単収500kg以上は3500円、未満は3000円、水利費はそもそもない。
 これまでに申し込みを断ったケースは3件のみ。沢にのみ込まれてしまった田んぼ、途中が林道で危険な場所等で、原則は断らない。田んぼの1割は山に返っていたが、他は少し前までは耕されていた。復旧を要する田んぼは、作れるようになるまで小作料ゼロにしている。


◆作目と労働力

 作付けはソバ30ha、主食用米10ha、野菜(わらび、アスパラガス、枝豆等)7~8ha、大豆3.5ha、自己保全2ha程度である。主食用米は単収が地域平均8.2俵のところ7俵台に落ちる。全量JA出荷したうえで、3~4割は買い戻して温泉旅館等への販売やパックライス(レトルト食品)2万パックを販売している。飼料用米は単収が低いので取り組まない。
 資材はJAからの購入である。運転資金の確保に苦労するが、農協は支払時期の若干の融通が利く点が有難い。
 地域別に6班に分かれて作業し、班長は出資者が務める。労働力は非常勤が45名、うち女性が25名と多い。60、70代が主で、主に野菜を担当している。男性も年齢は同様である。班長が「顔の見える関係」で声がけして地元から募っている。冬場の12~2月は、わらびのポット苗の準備等を除き仕事がない。時給は主作業1020円、補助作業820円。組合は地元労働力の新たな活用の形だといえる。


◆水稲は「雇用農家」制

 ユニークなのは主食用米生産である。これは組合が借りた圃場の近くの農家に作業委託している。受託者はほぼ11名で、最高年齢は76歳、30代、40代も各1名いる。
 作業料金支払いと定額月給制に分かれる。後者は単収に応じて、7俵5万9000円、8俵7万2000円、9俵8万6000円等に設定し、月給制で支払うようにしている。毎月おカネが入るということで奥さん方が喜んでいる。組合はこの方式を「雇用農家」制と呼び、「月額定額収入、サラリーマン並みの社会保障(厚生年金、社会保険)」をうたい、「中核農家を育てる新たな仕組み」と位置付けている。
あつみ農業ビジョン2025
 2018年の経営収支は、販売額が2300万円、営業外利益2800万円で、750万円の経常利益をあげている。いろんな作物に取り組んでいるので収入保険に加入した。
 行政の支所、JAの支所営農課と組合等で、2016年に「あつみ農業ビジョン2025」をたてた。農業の担い手を、(1)「文化としての農業を守る」自給的農家216名108ha、(2)「職業的農家」...現状8ha以上の農家6名を12名に増やして140ha、(3)30haの集落営農法人5つを立上げ150ha、(4)残りの受け手のない農地242haの9割を組合が受け、残りは戦略的撤退、というものである。
 (3)については組合からのれん分けした集落営農20haが一つあるが、(2)(3)はなかなか進まず、(4)のみが増えている。そこであつみ町一本の人・農地プランを作成する2030年ビジョンを検討している。


◆これからの取り組み

 今のところ非常勤は足りているが、事務を担当する常勤職員1名確保したい。圃場分散がネックになっているので、圃場整備に取り組むオールあつみの新組織を立ち上げたい。分散しているが面積がまとまっている場合は、農地中間管理事業の助成金対象にして欲しい。小作料は今の水準を維持する。
 ソバは助成金依存なので早く脱却したい。コメの低コスト生産、枝豆等の土地利用型の新規作物へのチャレンジ等を摸索する。来年の価格・収穫が予想可能ということでコメはやはり安定的である。温泉地の立地を活かし、パックライス等の6次化を進めたい。


◆中山間地域を守るJA

 国の農地集積はいよいよ中山間地域に向かうが、そのための教訓があつみ農地保全組合にはいっぱい詰まっている。
 まずは耕作放棄対策で、農地集積もその一つの手段だ。中山間地域だからこそある程度広域の取り組みで面積とスタッフを確保する必要がある。同地域では圃場が谷々に分散しており、農地中間管理事業や圃場整備事業は分散圃場への積極対応が必要だ。
 営農主体の育成にはJAの実質的関与が欠かせない。核は人材である。「雇用農家」のような発想は農家からはでてこないし、全国的にも集落営農法人を担っている農協OBは多い。JAは現役時代から地域を守る人材を養成することに意識的に取り組むべきだろう。そして地域を取りまとめるのは農家だ。JA・新たな協業組織(組合)・農家の協同が鍵だ((1)(2)の取材には県中央会担い手サポートセンターのお世話になった)。

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田代洋一・協同の現場を歩く

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