農政:薄井寛・20大統領選と米国農業
中西部穀倉地帯では『トランプ勝利』 政治の左傾化を嫌った農村部有権者【薄井寛・20大統領選と米国農業】第14回2020年11月10日
11月7日、バイデン前副大統領が勝利宣言。一方、トランプ大統領は9日現在、敗北を認めていない。トランプの法廷闘争が事態を混乱させる可能性は残るが、本号では中西部農業州の投票結果を中心に報告する。
成果を挙げられなかった民主党の中西部対策
CNNの出口調査(11月4日)によると、東部と西部ではそれぞれ58%対41%、57%対41%と、得票率でバイデンがトランプを大きく上回ったが、中西部と南部ではともにバイデンの48%に対してトランプ50%。この差が一部の激戦州に予想以上の大接戦をもたらした。
中西部での投票結果には、次のような特徴が見られた。
(1) 農業州における地方有権者のトランプ岩盤支持の根強さを改めて浮き彫りにした。
(2)農村部でのバイデンの得票率は前回のヒラリーを若干上回ったものの、トランプとの差を埋めるには至らなかった。
(3)民主党は農村部の得票数を回復させるために中西部の地方選挙区対策を強めてきたが、上下両院の選挙でも予想以上の苦戦を強いられ、中西部対策は成果を挙げることができなかった。
このような実態を中西部最大の農業州アイオワに見てみよう。
(1)トランプ対バイデンの得票率は53.1%対44.9%。トランプは前回選挙より得票率を2.4ポイント伸ばした。
(2)州内99の郡のうち、90の郡でトランプ勝利。世帯数に占める農家の割合が高い上位20の郡では、トランプ65.1%対バイデン33.2%。バイデンはヒラリーの32.2%を1ポイント上回っただけだ。
(3)農家の割合が高い20の「農業郡」では、その割合が高いほどトランプの得票率が高くなるという相関関係が見られた。農家の割合が第1位のライオン郡ではトランプの得票率が83.2%、第20位のブチャナン郡では59.6%(図参照)。
こうした結果には、主として三つの要因があったと考えられる。
一つは、多くの有権者にとって新型コロナ対策への批判よりもトランプの経済優先策への期待が勝ったということ。前出の出口調査でも、投票の際に最も重視したのは「経済」の35%で、「コロナ対策」の17%を2倍以上も上回る(「人種差別」は20%、「犯罪・治安」と「健康保険」がともに11%)。多くの農家や地方住民が次期大統領へ優先して求めたのは、農産物の需要回復や雇用安定などの経済対策だったのだ。
二つ目はトランプの政策に対する評価とバイデンへの警戒感だ。具体的には、米中貿易戦争やコロナ禍に対する多額の救済金支給が多くの農家の投票に影響を与える一方、バイデン政権誕生による固定資産税等の引き上げに対する警戒感が広まった。それに加え、農村部への公共投資予算を有する農務省が地方郡へのインフラ投資を選挙直前に集中して実行したのも、効果を発揮した。
農務省は10月にプレスリリースを58回発信したが、そのうちの実に40回が各州農村部における高速通信回線等への投資(総額約5億7000万ドル)に関する広報であった。前年の10月、同種のプレスリリースは22回中7回に過ぎない。農村部への選挙対策として、現職大統領の強みが露骨に発揮されたのだ。
三つ目は、バイデン大統領の誕生によって米国の政治と社会が急速に左傾化するのを地方有権者の多くが恐れたことだ。特に、「黒人の命は大事だ」の運動が警察予算の削減要求にまで及んだことが、地方住民の警戒感を強めたと伝えられる。
激戦州では地方有権者の投票がバイデン勝利へ貢献
近日中に各州の最終選挙結果が出そろい、多くの識者やメディアはそのデータを詳しく分析することになるが、地方有権者の投票行動はどのように評価されるのか。
五大湖周辺州における農村部の投票結果について、一つの分析がすでに報じられている。ミシガン州とウィスコンシン州では、両候補が大接戦を展開。それぞれ2.6ポイント、0.6ポイントの僅差(9日現在)でバイデンの逆転勝利となったが、この勝利に地方有権者のバイデン支持が貢献したとの評価だ。つまり、これら2州の地方郡におけるバイデンの得票率は前回のヒラリーよりも2~3ポイントしか伸びなかったが、その小さな得票増がバイデンの逆転勝利を助けたというのだ(11月5日デイリー・ヨンダー紙電子版)。
中西部の北に位置するこれら2州では、酪農や畜産、穀物、馬鈴薯、青果物など多様な農業生産が展開されているが、その担い手の多くは中小の家族経営農家や兼業農家だ。トランプ政権による多額の補助金バラマキの対象農家は、大規模農家の多いアイオワ州などの穀倉地帯に比べて少ない。こうした実態が2州の選挙結果に微妙な影響を与えたものと考えられる。
ただし、これは限られた視点だ。一般的には、バイデン勝利へ圧倒的に貢献したのは都市部と都市郊外の有権者であり、トランプに大接戦を可能とさせたのは保守的な地方有権者であったというのが、選挙分析の柱になるだろう。しかし、これでは農村と都市の分断を癒すどころか、いっそう深刻化させかねない。
バイデン次期大統領は勝利宣言のなかで、「分断でなく団結を」と訴えた。新政権は今後の農業・地方政策でその基本姿勢をどう具体化していくのか、注目していきたい。
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