農政:森田実と語る!どうするのかこの国のかたち
西郷隆盛の「農を励ます」の言葉胸に 農家支える制度づくりどう進める 森山裕・元農相【森田実と語る】2022年5月20日
政治評論家の森田実氏が、各界のキーマンと語るシリーズ「森田実と語る!どうするのか この国のかたち」。3回目は、元農相で自民党の「食料安全保障に関する検討委員会」委員長を務める森山裕衆議院議員にインタビューした。同委員会は5月19日に食料安保強化に向けた提言をまとめたばかり。飼料や肥料など様々な資材の高騰で農家が危機に直面する中、森山氏は地元・鹿児島ゆかりの西郷隆盛の言葉も引用しながら農家を中長期的に支える制度や施策づくりへの思いを語った。
(敬称略)
森山裕元農相
故郷の大先輩・西郷隆盛の「農を励ます」の深い意味考える
森田 森山さんは衆院鹿児島4区選出ですね。先日、ある会合で西郷隆盛の言葉を引用したスピーチをされていたのが印象的でした。森山さんにとって西郷さんは故郷の大先輩格であり、大変重要な存在であると実感しました。
森山 西郷さんの遺訓集に「政(まつりごと)の大体は、文を興し、武を振るい、農を励ますの三つにあり」との言葉があり、大切にしています。文を興しは教育の大事さ、武を振るいは国の守りをしっかりやれということと理解していますが、私は「農を励ます」は非常に大事な視点であり、この3つを大事にするという教えは大変意味深いと思っています。
今、ロシアのウクライナへの侵攻という考えられない事態が起き、食料安全保障がクローズアップされています。自民党内に食料安全保障の検討委員会を立ち上げて議論を進めていますが、改めて非常に深い問題だと感じています。
森田 今の日本において一番大事なことだと思います。世界がとげとげしくなり、エネルギーや食料を押さえてほかの国に与えないというナショナリズムの傾向が強まっています。日本としてこうした状況を乗り越えることは絶対的に必要ですね。
忘れかけていた耕畜連携 思い切った政策転換を
森山 例えば小麦が非常に厳しい状況でパンはどうなるのかとの心配もありますし、改めて事の重大さに気付いていますが、肥料の原料のほとんどを外国に頼ってきました。ここが非常に大事な点ですが、日本の農業には昔から農畜連携という教えがあったにもかかわらず、われわれは少し忘れかけていたのかもしれないと思い、今、議論を深めています。
それとわれわれは米を主食としてきましたが、昭和37年ごろ、1人年間118キロぐらい米を食べていたのが、今は50キロを切ろうとしています。今の水田ですべて主食米をとなると余ってしまい、価格も上がらないので、もう少し米粉にシフトできないかと考えています。鹿児島には「かるかん」という米粉でつくるおいしいお菓子があり、いい「かるかん」をつくるために粒子を細かくする技術があります。こうしたことも生かしながら、米政策のハンドルを思い切ってきることも大事ではないかと考えています。
さらに世界ではカーボンニュートラルを目指すという大事な方向性が示されていますので、米作りもカーボンニュートラルに繋がる農業に変えていくことも大事な視点ではないかと思っています。
他産業と異なる農業の特色 バランスが大切
森田 私は学徒動員も経験し、ずっと政治を見てきましたが、新しい憲法ができてから75年間のうち自民党と自由党の政権が約70年です。大部分を保守政党が政権を担ってきた原因の1つは調和と均衡、バランスに絶えず配慮してきたことがあると思います。自然と人間、社会。それから都市と農村、工業と農業のバランスを絶えず調整してきた。ところが今、都市と農村、大都市と地方のバランスが崩れてきていることへの危機意識が多少不足してきている印象があります。
森山 そこは非常に大事なところです。農業の産物は、工業製品と違って一定の期間がかかり、その間に農家ではどうすることもできない気候の問題もありますから、やはり他の産業とは違うと思います。新自由主義に走り過ぎると農業はなかなか厳しいですし、バランスよくやることが大事だと思います。
また、調和という精神や行いがどこから始まるかというと、やはり教育が大事だと思います。今、農水省でも教育に農業をどう絡ませていくかということに対していろんな努力をしています。
森田 さきほども触れられましたが、今、さまざまな生産資材が高騰して農家の経営を直撃していますが、農家への支援についてどうお考えですか。
資材高騰に為替も見据えた対応が必要
森山 短期的にやるべきことと構造改善を含めてやるべきことがあります。まず短期的には、畜産の分野で飼料が非常に高騰し、農業分野では秋の肥料が驚くぐらい上がるのではないかと思われます。飼料については一応農家を支援する制度らしきものはありますが、もっとしっかりした制度をつくらないといけない。農家の皆さんが秋の植え付けはもうやめた方がいいなどと思わないよう、しっかり支えますから頑張ってくださいという政策を早く打ち出さないといけないと思います。
中期的なものについても、できるだけ早く方向性を示し、これなら安心して農業を続けられると農家のみなさんに思っていただける制度を打ち出すことが非常に大事だと思っています。
森田 円安も進んで食料品など様々な物価が上がっていますね。こうした点への対応についてはどうお考えですか。
森山 平成20年のときも同じような現象が起きていますが、大きく違うのは、今は非常に円安に振れているということです。平成20年のときは1ドル100円前後だったと思いますが、130円に迫るという今の状況は初めて経験することではないでしょうか。そこも考えて以前はこうした政策を打ったからそれでいいということでなく、為替の動きも見据えてしっかり対応することが大事だと思います。
日本の農業の強み生かした農業政策を
森田 私は世界を見てきて、日本の春夏秋冬や自然条件は大変優れ、これを活用すれば素晴らしい食料生産ができると思っています。国民が自信を持てる施策を打ち出してほしいと思います。
森山 私はTPP交渉に最初から関わってきましたが、この取り組みを通して農家の皆さんも日本の農業が強いことを理解していただけたと思います。一つは生産履歴の分かるものを作れるようになったこと、そして味や安全性についても日本の農畜産物は一番安心できると評価されています。
これは日本の家族農業がもたらした成果ではないかと考えています。アメリカの場合、経営者と農作業員は全く別の関係ですが、日本では一体です。そこが非常に強みであり、こうした点も生かした農業政策を打ち出していきたいと考えています。
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