農政:バイデン農政と中間選挙
【バイデン農政と中間選挙】来年も上がる米国産穀物・大豆価格~ロシアの肥料輸出戦略に危惧【エッセイスト 薄井寛】2022年9月21日
国連食糧農業機関(FAO)は9月2日、「(小麦と植物油の価格指数がそれぞれ5.1%、3.3%下がったため)8月の世界食料価格指数は7月比マイナス1.9%、5カ月連続の下落」と発表した。高騰した農畜産物への需要低迷に加え、ロシアやカナダ等の小麦の生産増とウクライナの輸出再開、それに大豆油の高値を上回るパーム油や菜種油の価格下落があったからだ。
ただし、需給緩和によって穀物・大豆の国際価格が来年に向けて下がるとの見通しはない。逆に、生産は期待されるほど伸びず、国際価格は現在の高水準を超えてさらに上昇するとの予測が支配的だ。
反収減の米国産トウモロコシ・大豆
米国農務省が9月12日に公表した世界食料需給観測は2022/23年度の国際市場について三つの変化を示唆した。
第1は世界的な生産の停滞だ。
2022/23年度の世界の穀物総生産量は前年度比1.62%減の27億5500万トン。小麦の生産はロシアで大幅に増えるが、ウクライナやインドの減産を補えず、全体では0.5%の微増に留まる。
トウモロコシなどの飼料穀物はEU諸国や米国の減産で2.8%減り、コメもインドや中国の減産で1.4%減。いずれも干ばつなどの異常気象による。
一方、価格高騰による需要低迷で穀物消費は前年度比0.7%減るが、生産量が1.4%減るために期末在庫は3.4%減。2019/20年度から3年連続の減少となる。
背景には米国の減産がある。特にトウモロコシの反収が干ばつで落ち込み、生産量が7.7%も減る。大豆も同様で、生産量は1.3%減だ。
大規模な飢餓発生の危機を前に、世界の穀物生産は5000万トン近くも落ち込むことになる。
第2は穀物・大豆価格のさらなる上昇だ。前出の需給観測によると、2022/23年度における米国農家のトウモロコシ、小麦、大豆の販売価格(年間平均)はそれぞれブッシェル当たり6.75ドル(前年度比13.4%高、トン当たり約3万8000円)、9.00ドル(18.0%高、約4万7300円)、14.35ドル(7.9%高、約7万5400円)と予測されている。
第3の変化は穀物・大豆の輸出市場における南米農業国とロシアの躍進だ。品目別に整理してみよう。
〇トウモロコシ:総輸出量は4.7%減の1億8560万トン。ウクライナは1300万トン(50%)減らし、米国も500万トン(8.1%)減だが、ブラジルが250万トン(5.6%)、アルゼンチンも200万トン(5.1%)増やす。
〇大豆:総輸出量は9.5%増の1億6790万トン。米国では160万トン(2.8%)減るが、世界最大の輸出国ブラジルが900万トン(11.3%)増やし、第2位の米国をさらに引き離す。アルゼンチンの輸出も470万トンへ倍増だ。
〇小麦・小麦粉:総輸出量は1.5%増の2億840万トン。ウクライナは780万トン(42%)減らすが、ロシアは900万トン(27%)増やして史上最高の4200万トン。北アフリカ諸国やトルコなどへ輸出を増やし、世界第1位の小麦輸出国へ躍り出る見込みだ(表参照)。
〝肥料も武器″に使うロシア
国際市場のこうした変化は食料輸入大国の日本へどう影響するのか。特に次の2つが懸念される。
一つ目は農業生産コストの増大と食料インフレの進行だ。
なかでも飼料穀物のさらなる高騰が日本の畜産・酪農家に未曾有の打撃を与えかねない。米国で値上がりする飼料穀物はトウモロコシだけではないのだ。2022/23年度の農家販売価格はグレインソルガムが12.7%高、大麦29.9%高、オーツ麦27.5%高と、軒並み高騰が予測されている。
二つ目は〝肥料も武器″に使うロシアの輸出戦略の影響だ。
国連食糧農業機関によると、ロシアは窒素肥料の輸出で世界第1位(2021年)。カリウム肥料で2位、リン酸肥料で3位だ。それに、窒素肥料の原材料であるアンモニアの合成に使われる天然ガスでも、世界最大の輸出国である。
このロシアが、ウクライナ侵攻に対して〝中立的な″立場を表明するブラジルなどの南米農業国と中国、インドに対し、肥料を積極的に輸出する戦略を強めているのだ。
前述したブラジルやアルゼンチンの増産予測はロシア産肥料の輸入確保を前提にしたものと推測される。
こうしたロシアの肥料輸出戦略は国際市場における穀物・大豆等の供給を不安定化させ、市場価格のさらなる高騰を招きかねない。特にロシア産の肥料や天然ガスに依存してきたEU諸国の農業が厳しい打撃を受け、それが国際市場の大きな波乱要因へ転換し得るのだ。
2022/23年度のEUでは、干ばつと肥料高騰などによって小麦と飼料穀物の生産がそれぞれ4.5%、9.3%も減るとの予測を、米国農務省はすでに公表している。
市場の不安要因は他にもある。
戦争中のウクライナがはたして高騰する肥料を確保できるのか。それによって穀物生産の予測が大きく変動する。
また、9月上旬にトウモロコシの播種期を迎えたアルゼンチンは30年ぶりの激しい干ばつに見舞われ、減産の予測が米国では早くも報じられている。
他方、米国の8月の消費者物価指数は7月の対前年同月比8.5%高から8.3%へ下がったが、食料品価格は前月比0.5ポイント上がって11.4%高(穀物・パン製品16.4%高、食肉・魚・卵10.6%高、酪農製品16.2%高)。1979年5月以来の高水準だ。
バイデン大統領の一期目後半の命運を決める中間選挙まで残り1カ月半。この選挙で与党民主党が上下両院とも多数を失えば、米国の政治情勢が市場の不安要因へ加わることになる。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
【石破首相退陣に思う】戦後80年の歴史認識 最後に示せ 社民党党首 福島みずほ参議院議員2025年9月16日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(6)2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
「JA共済アプリ」が国際的デザイン賞「Red Dot Design Award2025」受賞 国内の共済団体・保険会社として初 JA共済連2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
公式キャラ「トゥンクトゥンク」が大阪万博「ミャクミャク」と初コラボ商品 国際園芸博覧会協会2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日