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特集:検証・アベノミクス

2013.04.19 
【検証・アベノミクス】インタビュー 水野和夫・日本大学国際関係学部教授 金融膨張策は生活リスクを拡大させる一覧へ

・「買い換え需要」しかない日本
・金融で成長もくろむ
・お金を増やせば解決する?
・しわ寄せは雇用者にも及ぶ
・なぜ、賃金が上がらないのか?
・企業利益確保が優先される時代
・エネルギーの国内生産がデフレ脱却の道
・国債を買い支える国民の貯蓄
・「21世紀の利子率革命」とは
・「株式会社」形態には限界がある

 アベノミクスによって株価は上昇、円安によって輸出も伸びているといわれる。しかし、日本をはじめとする先進国においては、経済成長を目標とする時代が終わりつつあるという見方もある。そんな時代のアベノミクスは何をもたらすのか。シリーズ第2回は日本大学国際関係学部の水野和夫教授に聞いた。
(聞き手は農村金融研究会の鈴木利徳専務理事)

バブル崩壊で大リストラも…

◆「買い換え需要」しかない日本

水野和夫・日本大学国際関係学部教授 鈴木 水野先生は日本をはじめとする先進国は財もサービスも基本的には十分満たされており、もはや経済成長できなくなっていると主張されています。改めて経済成長ができなくなったのはなぜかお話しいただけますか。
 水野 経済成長というのは名目GDP(国内総生産)、つまり付加価値の総額が対前年比でどれだけ伸びたかです。
 名目GDPとは売上げから中間投入を引いた、いわゆる粗利益。中間投入とは資源やエネルギーなどの費用です。それが高度成長のときには年10%、70年代のオイルショック後は4%、そしてバブル崩壊後は1%しか成長しなくなった。原因は、そもそも売上げが伸びなくなった上に新興国の台頭で資源価格が高騰し、投入コストが上がったからです。テレビも自動車も身の回りにはあらゆるものがあふれていて壊れなければ買わない。つまり、買い換え需要しかなくなってきた。
 もっともサービス分野には新たな成長が期待できますが、それも基本的に時間の制約がある。たとえば美容院に行くといっても月1回程度でしょうし、旅行も週休2日制なら週に3日も4日も出かけられない。介護など高齢化にともなう需要はありますが、基本的には今の社会生活に立脚しているのであれば財とサービスはみんなそろっている。
 一方で、新興国の近代化が進むなかで資源とエネルギーの価格は上昇し、名目GDPを上げることが難しくなっている。先進国は安く輸入して、高く売ることはできなくなった。

◆金融で成長もくろむ

 水野 そこで先進国は何をやったかといえば、ひとつは金融産業を成長産業にすることでした。金融産業は欲望を満たす場ですから、無限に市場が拡大していく性格がある。お金そのものを殖やすことを目的にするわけです。
 鈴木 カジノ産業みたいなものと考えていいのですか。
 水野 そうです。お金なんて3000万円もあれば十分だと思うかもしれませんが、3億円、4億円あってもじゃまにはなりません。テレビやパソコンはあまりに台数が増えるとじゃまですが、お金は銀行に預ければ貯金通帳にゼロが1つ、2つ増えるだけです。
 これが米国の戦略で金融産業を成長産業にするために金融を自由化しそれで売上げを増やそうとしてきたのです。これでリーマンショックまで3年に1度バブルを起こしては崩壊しながらも何とかやってきた。
 もうひとつ何をやったのかといえばBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国などの新興国)の台頭を促したのです。米国の投資銀行がレポートを出して、これからはBRICsの時代だ、そこで売上げを増やそうという戦略を立てた。
 鈴木 それが資源・エネルギー価格の高騰につながった、と。
 水野 たしかにBRICsの台頭でエネルギー需要は増えましたが、それでも原油1バレル20ドルが100ドルになる理由はあまりないと思います。実際5倍もエネルギー消費が増えたわけではありません。しかし、BRICsだけで30億人が車に乗りエアコンを使う快適な生活をするという期待を織り込み100ドルにまで上昇した。これは金融自由化で金融市場を拡大したからお金が資源に投資され高騰したわけです。つまり、70年代からの金融自由化、その後の90年代からのBRICsの台頭は表裏一体だということです。

◆お金を増やせば解決する?

 鈴木 先進国は高く仕入れながら競争関係のなかで安く売るしかないということですね。このような経済の大きな流れのなかで、今回のアベノミクスは経済を回復、成長させるためにお金を無制限に量的緩和するとしています。まずこの根拠となっている考え方について解説していただけますか。
 水野 これは貨幣数量説に基づくものです。簡単にいえば貨幣の量(M)を増やせば、取引量(T)、あるいは一般物価水準(P)が上昇するというものです。式(別掲)を見れば分かるように左側のMが増えるのであれば、右側のP、あるいはTが増えないとイコールにはなりませんね。
 このTは取引高ですが、しかし、このなかには自動車の生産高といったものだけではなく、金融市場での株や土地の売買取引も含まれています。というより、実は金融自由化によって金融取引を通じてより利益が実現できるように考えたわけです。だからMをどんどん増やせば株の売買が活発になって株価が3割、4割上がるというのはその通りでしょう。しかし、株価はあくまで企業収益の何倍という国際比較があります。ですからある時点で、アップル社よりも日本の家電メーカーの方が株価収益率が高いのか? という見方が出れば、とたんにこの株価は高すぎる…という評価になると思います。
 さらに、この式にある貨幣の流通速度(V)とはお金全体がある期間に何回転するかということですが、金利がゼロに近いと回転率を高める必要はあまりありません。むしろ貨幣の流通速度が落ちるので、政府が考えるようにお金は回らないと言えます。
 鈴木 バブルはいつか崩壊する。そうなったときの経済へのマイナス影響がさらに大きくなることが懸念されるわけですね。

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◆しわ寄せは雇用者にも及ぶ

 水野 ですから、本当は肥大化した金融市場をいかにコントロールするかが大事だと思います。株は永遠に上がるわけではありません。今、株価が1万3000円台になるということですが、1万円で買った人が1万3000円で売れば3000円儲かったということになりますね。しかし、同時に1万3000円で買った人がいるわけですから、今度は1万6000円にならないと実現益は出ないということになります。ただ、株価は必ずどこかに上限があり上がり過ぎれば下がる。しかもバブルが崩壊すれば大リストラが起きることになる。
 実際にリーマンショック後の09年には実質成長率が5.5%落ち、その過程で正規社員から非正規社員へ、さらに非正規社員の雇い止めまで起きた。つまり、資本市場だけで損得が精算されるのではない。企業経営者もバブルではないと思って国内に大型投資をしたために、バブルが弾けると企業リストラを行わざるを得なかった。

◆なぜ、賃金が上がらないのか?

 鈴木 リストラとなれば大問題ではありますが、その前に、そもそもなかなか賃金が上がらない。アベノミクスでもそれが実現するかどうか、とくに中小・零細企業にとっては不安が広がっています。そこで今、実は働く側にとってどんなことが起きているのか教えていただけますか。
 水野 売上げから中間投入を引いた差が付加価値、すなわち名目GDPですね。この名目GDPを分配面からみるとどうなるか。
 グローバリゼーションというのは資本の力を圧倒的に強くします。象徴的にいえば、たとえばフォルクスワーゲンやベンツが労働側に対し、賃下げを呑まないのなら工場を丸ごと閉鎖しスペインに持っていくぞ、と言い労働側はその賃下げを呑まざるを得ないということです。通常、付加価値つまり名目GDPは、資本減耗と雇用者報酬と企業利益の3つに分配されます。
 鈴木 資本減耗というのは減価償却費のことですね。
 水野 そうです。今持っている資本を昨年と同じように維持して使えるようにするためのコストです。
 ここでは分かりやすく説明するため、減価償却費を除いて考えることにすると、通常、分配割合は雇用者7割、企業3割です。たとえば、500兆円の付加価値があるならその分配は労働350兆円、企業150兆円となります。これが1%成長をすれば名目GDPは5兆円増える。その5兆円をやはり7対3で分けるのであればいい。しかし、資本の力が強く、企業利益を増やそうとするために労働への分配は少なくなる。

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◆企業利益確保が優先される時代

 水野 仮に景気が回復する場合も、景気が回復するのは新興国が成長しているときか、あるいは米国がバブルになっているからで、資源エネルギー価格が上昇し中間投入コストが高くなるので、結局、名目GDPは少ししか上がらない。
 一方、景気回復とは工場の稼働率や働く人の総労働時間は増えることですから、生産量とほぼ同じ意味である「実質GDP」は上がる。そうすると政府は景気を実質GDPで判断するため、景気回復だ、と言う。すると株主は「景気が回復しているのだから配当を増やせ」と要求する。したがって資源エネルギー価格上昇で付加価値は少ししか増えていないのにもかかわらず、株主に対する配当を増やさなければならない。さらに減価償却費も昔の過剰な設備投資のおかげで工場や設備を維持するコストは高い。
 結局、分配面でみると景気が回復しても賃金が下がるという構造になってしまっている。
 鈴木 企業利益を確保するために雇用者報酬が削られるということですね。それは大企業が中小・零細企業への支払いを抑えることも同じですか。
 水野 そうです。


農林漁業の自立を促す政策を

◆エネルギーの国内生産がデフレ脱却の道

 鈴木 ところでアベノミクスはデフレ脱却をめざすものと説明されています。そのデフレとは何か、改めて解説をお願いします。
 水野 デフレとは名目GDP(国内総生産)と実質GDPの比率で表されます。これがGDPデフレーターと呼ばれている指標で、式で表せば「GDPデフレーター=名目GDP÷実質GDP×100」(%)です。分母の実質GDPとは、たとえば自動車を何台製造したかという生産量とほぼ同じといっていい。したがって、GDPデフレーターとは1台あたりに含まれる粗利益ということです。デフレとは、この生産量1単位あたりの粗利益すなわち「雇用者所得と企業利益の合計値」(減価償却費を除く)が下落することを意味します。
 そのGDPデフレーターは1995年から下がっている。20年近くの間、付加価値が低下しているということです。その理由のひとつが新興国の経済成長による資源やエネルギー価格の上昇、つまり仕入れ価格である中間投入額の増大にあります。
 ここから抜け出すには生産面では中間投入、すなわち原油価格が上がらないような仕組みがあれば、売上げが増えれば付加価値も増えるから、雇用者報酬を減らす必要はないわけです。
 つまり、デフレを脱却し雇用者報酬を削らないためには、国内でエネルギー資源をつくるしかないということになります。自然エネルギーなどすぐには無理でも石油並みのコストで国内供給できればその分企業の売上げは増え、日本経済全体でみれば計算上はエネルギーの仕入れを売上げで相殺することになります。そうなればGDPデフレーターが改善され、ゼロインフレになる。
 ゼロインフレというのは価格変動を考慮することなく消費活動や生産活動ができることだとグリーンスパン前FRB(米連邦準備制度理事会)議長が言っています。これが望ましい状況だと。
 ただし、問題となるのは中国で大変なデフレが起きかねないということです。中国は20、30年で近代化をしようということで、今、世界の粗鋼生産量15億トンのうち中国が7、8億トンを製造しています。しかし世界的には5億トンほど供給過剰といわれており、中国に相当に過剰供給が集中している。この過剰供給力は需要がなくなったときには全部がデフレ圧力として出てきます。
 ですから、先ほど指摘したようにエネルギーを国産化するなどの努力をすればデフレ要因が取り除けるのですが、中国がデフレになれば世界中がデフレ圧力を被る可能性があるということです。

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◆国債を買い支える国民の貯蓄

農村金融研究会の鈴木利徳専務理事 鈴木 ここまでのお話で先進国は構造的な問題を抱えていることが明らかになったと思います。ところで、アベノミクスで株価が上昇したと喜んでいる人がいる一方、将来不安から貯蓄を考え、金融市場に投資するような行動はとっていない人もいます。ここはどう考えればいいのでしょうか。
 水野 政府は国民に対して、貯蓄から投資へと言います。しかし、毎年40兆円の国債がなんなく消化できるのは家計が銀行に貯金してくれるからです。日本の銀行は実物経済への貸し出しと国債だけに預金を回しています。それが貯蓄から投資へとなると40兆円の国債が消化できなくなって財政がひっくり返ることになりかねない。そういう問題を抱えています。

◆「21世紀の利子率革命」とは

 鈴木 水野先生は「21世紀の利子率革命」という言葉で今の日本、あるいは先進国の経済状況を表現されていますが、少しわかり易く解説していただけますか。
 水野 先進国の長期金利は1974年をピークに低下傾向にあります。日本の10年国債利回りは1997年9月から15年間継続して2.0%割れ、英米独の10年国債利回りは2011年8月の第二次ギリシャ危機以降2.0%割れです。
 長期金利は実物投資に対する利潤率の代理変数と言え、長期金利が下がったということは企業の利潤率が下がった、ということを意味しているわけです。私が「21世紀の利子率革命」といっているのはこのことです。
 歴史上、長期金利が2%以下になったのは17世紀初頭のイタリア・ジェノバで、それほど低金利になったのは紀元前からそのときまでなかったため20世紀になってドイツの経済学者が“利子率革命”といった。ところが今はその当時よりも低く、そして範囲も広く先進国に広がっている。過剰な資本の行き着く先は利子率の低下につながるわけです。
 マクロ経済的に言えば国内の投資先が少なくなり、海外に投資しようとなっているわけです。資本を過剰なまでに蓄積したために設備投資も過剰ストックとなり、そのはけ口として輸出比率が高まる。こうして金融と一体となって経済のグローバル化が加速しました。 しかし、グローバリゼーションは国内外に新たな格差と貧困を生んでいるというのが今の状況です。

◆「株式会社」形態には限界がある

 鈴木 さて、最後に農林漁業に関わることですが、これまでのような成長ができない経済社会だとしてとくに日本の地方のありようはどうあるべきでしょうか。
 水野 これはもう東京一極集中をやめるしかないと思います。首都圏に3000万人とは過剰な人口集中です。かねてから地方分権と言われていますが、今後はもっと中央集権を解体していくしかないと思います。何から何まで全部東京に集まるというのは変えていかないと、より地方の疲弊を早める。限界集落も生まれ国土の維持ができないということなる。そこで農林漁業が自立していくことがいちばんの地方分権を進めることになると思います。それもある一定の地域内で循環するようなかたち、地産地消ということかもしれませんが、そうすれば雇用も確保されることになると思います。
 ただ、農林漁業の自立というときに、株式会社化、あるいは株式会社の参入などの必要性が強調されますが、私は株式会社自体が今限界に来ていると思っています。それに代わるものとしての協同組合の位置づけについては私には分かりませんが、一般論として株式会社の限界ということは考えておくべきだと思います。
 鈴木 ありがとうございました。

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