農政:緊急特集 TPP大筋合意―どうする日本の農業
壊される沖縄の農業―将来に禍根を残すな2015年10月14日
普天間朝重・JAおきなわ代表理事専務
多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意への意見や今後の日本農業の在り方などについて、多くのご意見が寄せられている。これらのご意見を逐次掲載していくことにしている。
今回は、JAおきなわ(沖縄県)の普天間朝重代表理事専務のご意見を掲載する
◆サトウキビと畜産が盛んな離島
広大なサトウキビ畑とところどころに見える牛舎、さらに山間部では放牧が雄大な景観を醸し出している。「国境の島」与那国町だ。
サトウキビと畜産は沖縄県のどの離島にもみられる光景で、与那国町では現在、老朽化した製糖工場(黒糖工場)を建替えるべく工事が進められており、島では将来においてもなおサトウキビを主要な産業と位置づけ、島をあげて増産に取り組んでいる。しかし、毎年襲来する台風がこうした増産運動に水を差し、今年も最大瞬間風速81m/秒という本県観測史上最大の台風が与那国町を襲った。サトウキビは横倒しになり、先端部分(尖頭部)は折れ、葉は大部分が吹き飛ばされた。サトウキビは尖頭部が折れると成長が止まり、葉がないと光合成ができなくなり糖度が上がらない。農家によると「今年は例年になくサトウキビの生育がよく、収穫量が増えると期待していたが、今回の台風により当初見込みの半分程度になりそうだ」と落胆していた。
畜舎もトタン屋根がはがされており今後、トタンの張替が必要だが、経費がかさむことはもちろんだが、そもそもトタン自体が手に入りにくく、離島であるがゆえに大工もなかなか見つからないという。
与那国町は近年人口が減少している。平成17年に1,796人いた島民は22年に1,657人と139人減少しており、最近の報道では1,500人程度に減少しているという。本県における小離島ではどこも同じ傾向にあり、粟国村では同期間で73人減(22年現在863人)、伊平屋村では162人減(同1,385人)、伊是名村では173人減(同1,589人)、伊江村では373人減(同4,737人)、竹富町では333人減(3,859人)という具合だ。
これらの島にはいずれも製糖工場があり、畜産も盛んだ。ちなみに本県には有人離島が49もある。
◆JAが支える島のくらし
今般のTPP大筋合意は、こうした離島地域の生活を根底から破壊しかねない重要な問題だ。
サトウキビでは砂糖に他の素材を加えた食品加工用原料「加糖調製品」の輸入枠が拡大(当初は6.2万トン、将来的に9.6万トンに拡大)することが盛り込まれており、海外から輸入される加糖調製品が増えていくと、沖縄が出荷する原料糖のシェアを圧迫する可能性がある。
牛肉についても現在の関税率38.5%を16年目に9%まで下げるという。そうした場合、3等級以下の国産牛肉の9割が外国産にとって代わられ、高級な4等級以上の牛肉でも1割程度価格が低下する見通しになっている。
ただでさえ人口が減少しているのに、ただでさえ他に代わる産業がないのに、ただでさえ毎年台風の脅威にさらされているのに、こうした島の人々の苦闘を尻目に、その生活の根底を揺るがそうというのだから、TPPの合意には大変な憤りを感じる。
政府はTPPに対応するために日本の農地の8割を担い手に集積し、コスト削減を図るという。そのために小さい農家は離農してくれと。
島では離農するとその農地は耕作放棄されてしまう。ある離島で6haの農地が売りに出されたが買い手がつかない。規模が大きすぎて購入しても耕作する自信がないからだ。もちろん金もない。現場を知らないで理屈理論で日本農業の姿を変えようとしてもどだい無理な話だ。
そういう中で、同時に農協改革を打ち出し、全中の一般社団法人化や信用・共済事業の分離(代理店化)、准組合員の利用制限などによりJAの力を弱めようとしている。
離島では金融機関はJA以外には郵便局しかないし、スーパーもJAの購買店舗やAコープしかない。そのため地域住民はJAに頼っているのが実情だ。JAの力を弱めて離島の生活をどうして維持できるのか。
我々JAグループはこうした政府の一連の自由化問題や農協改革について、将来に禍根を残さないよう、強い姿勢で臨んでいかなければならない。
なお、ここではTPPの影響について離島に焦点を当てたが、豚肉やパイン等本県全体に与える影響が甚大なものであることは言うまでもない。
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