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特集:緊急特集:「小泉進次郎が挑む農政改革」批判

2016.03.10 
現場よく見て政策を 農協は地域の生活に不可欠一覧へ

現場からの批判2 インタビュー・JAいわて花巻 高橋 専太郎代表理事組合長

 相次いで経済誌に登場し、自ら唱える「農政新時代」で農業・農協改革をPRする自民党農林部会長の小泉進次郎氏。最初に結論ありきのその改革論は、現場の多くの農業者の考えとは掛け離れている。岩手県のJAいわて花巻の高橋専太郎組合長は、「現場をきちんと見ているのか」と怒りの声をあげる。同組合長の話を聞いた。

◆東京では分からない

JAいわて花巻 高橋 専太郎代表理事組合長  農業や農政にかかわっている政治家や役人は現場にきて現実をよくみてほしい。いま日本の中山間地域は農業をやる人が激減し、JAいわて花巻管内でも、いまや限界集落が現実のことになりつつある。本当に大変な状況だが、こうしたことは、どうも東京にいる政治家や役人には分からないようだ。
 日本の中山間地域の農業や生活は、さまざまな面で支援がないと成り立たなくなっている。JAいわて花巻管内の農地集積率は約60%に達しているが、問題は残り40%の条件不利地にある。これを管理する人がいなくなる。
 いま、田んぼには10a7500円の経営所得安定対策交付金があるが、これがなくなると山間地の条件の悪い田んぼはだれも作らなくなるだろう。こうした現場の状況を知った上で、政府は政策を考えているのだろうか。
 平成30年には生産調整政策がなくなることについてどう思うかと、農水省の担当者から聞かれたが、「廃止はとんでもない」と答えた。生産調整は生産農家とともに、農業継続のため、われわれがどれだけ努力しているか、知ってもらわないと困る。
 JAいわて花巻では、市の農林部門と事務所をワンフロア化し、農業振興に努めている。その一つに強い農業づくり交付金で建設を進めている新しいカントリーエレベーターがある。これを農事組合法人が運営するようにした。


◆組合員運営のCEを

 同じやり方で、来年は北上市にも建設する予定だが、農協は職員を出向させ運営上の必要な支援をする。農協が直接運営することもできるが、生産者に任せた。みずからやることで、利用率が上がり、効率よい運営ができる。
 同じように法人で運営しているカントリーエレベーターがあり、玄米にして農協に出荷している。全農、農協の任務は、それをしっかり売り切ることだ。
 農協はこうした努力をしているにも関わらず、自民党農林部会長の小泉進次郎は「農協の生産資材は高い」と言う。そんなことはない。肥料でみると、単品で比較すると、ほんの少しの部分は高いものもある。だが全体を通じてみると農協の方が安い。


◆生産資材は高くない

 JAいわて花巻は、資材価格の低減に向けて常に努力を重ねている。営農指導員の人件費や指導費用もあり、農協の努力だけでは限界。全農の価格低減が急務ではないか。このような活動が評価され、おかげで資材取扱高は減っていない。
 農協の支店活動がそれを可能にしている。JAいわて花巻では27の支店がそれぞれ支店行動計画をたて、さまざまな協同活動を行っている。農村にはそれぞれ地域の文化がある。それを守り、育てることも農協の役割だと思っている。支店によっては事務所内に「組合員の部屋」をつくったり、料理用のキッチンを設けたりしている。
 また、どの支店でも行っているのが「ふれあいトーク」である。そこで農協への注文や意見を聞く。そして終わったら必ず懇親の場をつくって意見交換する。そうすると、おのずと事業は伸びる。政府は、そんな活動はしなくてもいいと言うのだろうが、そういう人は農協にきて必要がないかどうか、よく見てほしい。
 農協の目的は組合員が、農業しながらちゃんと生活できるようにすることにある。いま増設工事中だが、農産物直売所「母ちゃんハウスだあすこ」は、スーパーよりも新鮮で安いと評判で、年々利用者が増え、手狭になったため、1.5倍に広げる。


◆生活インフラ支える

 このように農協は、地域における生活インフラで大きな役割を果たしている。生活インフラの利用者を員外だからと言って利用を制限したら、管内30万人いる市民は、あすから日常の生活にも困ってしまう。
 そもそも農協の直売所を利用する人は、生活のために必要だから来るのだ。信用事業もそうで、郵便局がないから農協を利用するのであって、それを制限することは人権侵害だと言いたい。
 利用者が多いということは、それだけ農協が地域を守っているということでもある。地域の消防団も農協職員の団員がいなければ成り立たない。このように、組合員や地域の人々の営農や生活を守っているから、組合員から、「農協はよくやっている」と言われている。
 信用・共済の分離論など考えられないことだ。JAいわて花巻は経営の収支バランスはちゃんとれている。経営者は常に損益分岐点や部門別採算、固定比率、労働分配率などを掌握して経営に臨まなければならない。


◆支店の統廃合しない

 農協の事業をみるためと言って財界も含め、政治家や政府の役人、全国連の役員などがよく視察にきた。規制改革会議の委員もきたが、そこでわれわれの話を聞き、現場を見せると、ある程度理解してくれる。しかし、東京では違うことを言うのは腹立たしい思いだ。
 JAいわて花巻では、支店の廃止はしない。利用率も高く、収益もあげている。さらに合併後、年次計画で支店を建替えている。このことは組合員に評価され、ちゃんと農協についてきてくれている。農業協同組合は、助けあいの組織であり、人と人のつながりの組織である。支店はそのために必要だ。
 ただ、経営は経営、支店もちゃんと経営しなくてはならない。組合員サービスしたために赤字になっては、かえって組合員に迷惑をかけることになる。この点でJAいわて花巻は、組合員の農業生産拡大と生活の向上のためちゃんとやってきた。その結果が、米集荷200万袋運動の展開で今年度200万3000袋の達成、またリンゴの計画量20万ケースに対し25万ケースの集荷につながった。経営がおかしい農協だったら集まるわけがない。
 米の過剰については、TPPの特別枠で増える輸入米は備蓄して市場に出さないというが、過剰ならなぜ海外に出さないのか。中国観光客の爆買いが話題になっているが、炊飯器が売れているのだから、その商品に米を加えることができないはずはない。
 TPPは反対だが、ものによっては海外輸出を考えてもいいのではないか。ただ、農協がそれぞれ勝手にやっていたのでは効果がなく、買いたたかれる。オールジャパンで取り組むべきだ。
 いま、農協に求められることは、農村で生活できる仕組みづくりだと思う。しかし政府は農協は邪魔だと言う。われわれは地域の住民の生活を維持するため、食料生産に努めている。
 だが、農業は市場原理だけではだめだ。病害虫の発生や災害などの自然災害がある。その自然と一体となって生産活動するのが農業だ。当然のことながら、いろいろな形態の農業が生まれ、そこで農業する農民がいる。一律にみることはできない。


◆農業持続への議論を

 農協は運動する組織であり、こうやりたいのだという持論がなければ人はついてこない。TPPの問題でも、ただ反対というだけではだめだ。いかにして地域住民を守り、持続的農業を確立するか、そこに議論をもっていかないと運動につながらない。
 農協改革は職員の意識改革でもある。JAいわて花巻では、若手の職員がつくった「求められる職員像」がある。そのなかで「自らの責任を自覚し、資質向上に努め、自発的に行動・実践する職員」を掲げている。つまり農協職員としての自分の役割は何なのかを考え、組合員から求められる職員になろうという自己改革である。何事もそうだが、改革は従来の繰り返しで満足していてはできない。

(写真)JAいわて花巻 高橋 専太郎代表理事組合長

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