農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
欲しいだけ食料を輸入できる時代は終わる(1)【薄井寛・元JC総研理事長】2018年10月23日
かつて我が国が世界最大の農産物輸入国と言われた時代もあった。しかし、その日本の食料輸入をめぐる状況は今や、大きく様変わりしている。
◆人口大国で進む「爆食化」
図に示したように、世界の農畜産物市場における主要5品目(トウモロコシ・小麦・米・大豆・牛肉)の輸入総量に占める五大輸入国・圏(図の(注2)参照)の割合は、大豆を除き、過去30年間に軒並み低下した。トウモロコシの場合、1996/97―98/99年度(3カ年平均)の55.7%が2006/07―08/09年度の51.8%、2016/17―18/19年度の44.4%へ11.3ポイントも低減。小麦・小麦粉では28.5%から26.9%、24.2%へ、米は36.0%から28.1%、28.2%。牛肉・仔牛肉の市場では77.1%から57.9%、52.8%へと、大幅に後退した。
この背景にあるのは、6位以下の輸入国による輸入増だ。トウモロコシの市場では、イラン、サウジアラビアなどの石油産油国が国内養鶏を発展させ、過去10年間に飼料用トウモロコシの輸入を2倍以上も増やした。小麦・小麦粉市場では、食の高度化と人口増による消費増が進む中国やベトナム、フィリピンなどの輸入急増が目立つ。換言すれば、多くの途上国において、「爆食化」とも言える現象が広がり、これに人口増が相まって世界の食料市場への大規模参入をもたらしている。EU諸国や日本・韓国・台湾など、一部の豊かな国が食料輸入の大部分を占めていたのはもはや過去の時代なのだ。
経済成長著しいベトナムはその実態を示す一例だ。1980年からの48年間に人口は1.8倍の9650万人。1980~2013年の間、国民一人当たりの年間食肉消費量は6倍の55.2kg(Our World in Data)。2017/18年度、飼料用トウモロコシの輸入は920万トンと、韓国の980万トンに迫る勢いだ。食肉の「爆食」はベトナムに限らない。この33年間にブラジルでは2.4倍の97.6kg、中国は4.5倍の61.1kg、メキシコは1.7倍の62.2kg(日本は1.6倍の49.5kgへ)。インドネシアは2.9倍だが、いまだ13.6kg、今後の激増が予測されている。他の農産物市場でも途上国の「爆買い」が進むなら、輸出国の資源に限りがある以上、近い将来、国家間の「食の奪い合い」は避けられなくなる。
この先取り現象とも言える事態が大豆市場で起きている。同市場に占める五大輸入国の割合は、1996/97―98/99年度の77.6%から2006/07―2008/09年度の74.8%、2016/17―18/19年度の79.6%へと微増傾向。前述したトウモロコシなどの4品目とは明らかに異なる傾向を示す(図参照)。最大の要因は中国による米国産・ブラジル産大豆の「爆買い」だ。
1996/97―98/99年度の間、中国の大豆輸入量は年平均約300万t(世界全体の7.8%)であったが、2016/17―18/19年度は年間9480万t(同62.9%)。前述した五大輸入国のシェア79.6%のほぼ8割を中国一国が買い占める。未曽有の異常事態が起きているのだ。1990年代後半から2000年代中頃、大豆油(ブラジル産)の輸出価格はトン当たり300―600ドルで推移していたが、その後中国の輸入急増で、2010年の1100―1200ドル台にまで高騰。現在は、米国との貿易摩擦に直面する中国がロシア等から大豆と食用油の輸入をともに増やすなか、600―700ドル台の水準で推移する。
中国でも日本と同様、食用油の価格は上昇傾向にあるが、国内消費は引き続き堅調。2006/07ー17/18年度の10年間に大豆油の消費は860万tから1655万tへほぼ倍増した。米国・ブラジルの二大輸出国の一方で不作が起これば、日本はさらに高値の大豆を買わされる。世界第二の経済大国中国の食料輸入政策に多くの輸入国が引きずられる時代が到来したのだ。
(注1)数値は3カ年の平均値。トウモロコシ・大豆の年度は10月から翌年9月、小麦・小麦粉は7月から翌年6月、米・牛肉は歴年(1996/97年度は1997暦年を示す)。2017/18年度は暫定値、2028/19年度は予測値。
(注2)2017/18年度におけるトウモロコシの5大輸入国・圏は1位から順にEU、メキシコ、日本、韓国、エジプト、小麦・小麦粉はエジプト、インドネシア、アルジェリア、ブラジル、バングラデシュ、米は中国、ナイジェリア、インドネシア、EU、コートジボワール、大豆は中国、EU、メキシコ、日本、タイ、牛肉は米国、中国、日本、韓国、ロシア。
(資料)米国農務省の資料に基づき筆者作成。
| 1 | 2 |
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日