農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち - 挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合
大地に根 百姓続けたい【農業・歌人 時田則雄】2019年1月9日
わが国の農業の持続と国民食料の安定確保のための「国のかたち」が問われるなか、2019年は「挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合」をテーマに掲げた。食料生産の場である農村と人々の暮らし、命を守る農業協同組合の着実な取り組みがこの国の「かたち」をつくることと考え、十勝の大地で農業を営む歌人・時田則雄氏に寄稿していただいた。
エゾノギシギシ
私の農場は十勝平野のほぼ中央に位置する帯広の郊外にある。耕地面積は40㌶。コムギ、ダイズ、ナガイモ、ニンジン、タマネギなどを栽培している。農場からは十勝幌尻岳(ポロシリ)がよく見える。ポロシリとはアイヌ語の「ポロ」「シリ」で、「ポロ」は「大きい」、「シリ」は「山」だ。石川啄木は〈ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな〉と詠んでいるが、私にとってポロシリは夢と希望をあたえてくれる山なのだ。落ち込んでいるときは元気を取り戻してくれる山だ。
私は小学生のころから、大人になったら父のような百姓になろうと決めていた。それは土に触れたり、馬と共に過ごしたりしたからなのだと思う。そのような私が就農したのは農業と他産業との所得格差の是正、選択的規模拡大、離農促進などを謳った農業基本法が施行された6年後の1967年。当時、十勝平野は日本で最も激しい離農の嵐に吹きさらされていた。
土地を買ふは
罪かもしれぬ風吹けば
エゾノギシギシ種子ふりこぼす
経営規模の拡大を目指していた私は、土地や農機具の借金を抱え、離農の嵐に振り回されながらも経営を続けて今日に至っているわけだが、一歩間違っていたら離農していたかもしれない。ちなみに天間征編著「離農」(1980年・日本放送出版協会)は、1960年から1979年の間に十勝の農家戸数は23056戸から11923戸になったと記している。そのころ耳にした「ゴールなき規模拡大」という言葉はいまも私の心に刻み込まれている。
かくして私は就農してから53年になるのだが、この間、安心して農作業に従事したことはほとんどない。「猫の目農政」の連続であったからだ。こんにちも農業をとりまく状況は相変わらず厳しい。環太平洋連携協定(TPP11)、EUとの経済連携協定(EPA)など、自由化の波が怒涛のように押し寄せ、農山漁村には不穏な空気が漂っている。日本の食料自給率はカロリーベースで38㌫。この数字を都会の人たちはどのように受け取っているのであろうか。農業は自然が相手。もしも食料輸出国が凶作にみまわれたらどうなるか。食料は金さえ出せばいつでも口に入るとは限らないのだ。三橋貴明著「亡国の農協改革」(2015年・飛鳥新社)のなかに、次のようなくだりがある。―「前アメリカ大統領のジョージ・W・ブッシュは、自国の農業関係者を前にした演説において、『食料自給は安全保障の問題である。皆さんのおかげでそれが常に保たれているアメリカは、何とありがたいことか。それに対し、食料自給ができない国を想像できるか。国際的圧力と危険にさらされている国だ』と、感謝の言葉を述べている」―。この発言を私たち日本国民はいや、政権与党のセンセイたちはしっかりと噛み締めてみる必要がある。
この文章のタイトルのエゾのギシギシというのはタデ科の多年草で、世界の5大雑草のひとつであり、抜いても抜いてもなかなか絶えないそのしぶとさに、わたしは親しみのようなものを抱いている。そうなのだ、エゾノギシギシは大地の同志なのだ。
息子に経営を委譲してからもう5年。私は一介の百姓であるが、これからもポロシリにパワーをもらい、エゾノギシギシのように大地にがっちりと根をおろし、体の動く限り、現役の百姓を続けたいと思っている。
<略歴>
時田則雄(ときた のりお)
農業・歌人。1946年9月生まれ。北海道帯広市在住。1980年角川短歌賞を受賞して歌壇デビュー。歌集「北方論」(現代歌人協会賞)、「ポロシリ」(読売文学賞・芸術選奨文部科学大臣賞)。エッセイ集「北の家族」、「陽を翔るトラクター」。文化庁地域文化功労者表彰、短歌研究賞ほか著作、受賞歴多数。
重要な記事
最新の記事
-
渡邊次官は留任 林野庁長官に小坂氏、水産庁長官に藤田氏 農水省2025年6月24日
-
随意契約米 販売店 3万6737店 農水省2025年6月24日
-
日本農業再生機構設置を提言した涌井徹氏【熊野孝文・米マーケット情報】2025年6月24日
-
【Jミルク新執行部発足】需給対応に手腕注目、需要拡大目標設定と全国参加基金2025年6月24日
-
自律飛行型ドローンを活用した事業検討で基本合意 運航に必要なサービスを一体的に提供へ JA全農とKDDI2025年6月24日
-
夏の贅沢「丹波篠山デカンショ豆」JAタウンで予約販売開始 JA全農兵庫2025年6月24日
-
茨城県庁で子ども食堂への食品寄贈式 6月25日に開催 JA全農いばらき2025年6月24日
-
「とうもろこし収穫体験」開催 直売所「たべるJA(じゃ)んやまなし」が募集した315人参加 JA全農やまなし2025年6月24日
-
【JA人事】JA津安芸(三重県)新組合長に前川温仁氏(6月21日)2025年6月24日
-
【JA人事】JAおいしいもがみ(山形県)押切安雄組合長を再任(6月20日)2025年6月24日
-
サーキュラーエコノミーを加速 リーテムと業務提携契約を締結 JA三井リースグループ2025年6月24日
-
JAタウン「酪農家応援キャンペーン」対象商品は送料負担なしで販売2025年6月24日
-
JAグループによる起業家育成プログラム「GROW&BLOOM」採択者が決定2025年6月24日
-
第8回「懸賞論文」入選作品が決定 家の光協会2025年6月24日
-
「上を向いて、笑おう。御堂筋天国 旬のたよりマルシェ」6月27日に開催 農林中金2025年6月24日
-
小泉農相と意見交換 政府備蓄米の安定供給と市場流通促進へ アイリスオーヤマ2025年6月24日
-
国際シンポ「地球沸騰化時代のアフリカ農業と日本の最新技術」開催 アクプランタ2025年6月24日
-
弘前大学と共同研究講座「岩木健康増進プロジェクト健診2025」に参加 雪印メグミルク2025年6月24日
-
夏休み 子どものいる困窮世帯に食料支援プロジェクト実施 全国フードバンク推進協議会2025年6月24日
-
パルシステム連合会 第43回通常総会 新理事長に渋澤温之氏2025年6月24日