農政:どうするのか?コロナ禍のオリンピック
コロナに打ち克った暁に開催すべき 田代洋一・横浜国立大学名誉教授 【どうするのか?コロナ禍のオリンピック】2021年4月27日
コロナの憂さをせめてオリンピック・パラリンピックで晴らしたい、選手の活躍から元気をもらいたい、池江ガンバレ…その気持ちは十分に分かる。しかし今は、冷静にタイミングとバランスシートを測るべき時だ。
田代洋一
横浜国立大学名誉教授
まずタイミング。日本は第四波をむかえ、三度目の緊急事態宣言に入った。大都市圏のみならず地方圏でも感染が拡がっている。変異株が5月には主流になる。そして宣言のたびに感染の山が高まっている。
世界では、ロックダウンのような強硬措置をとっても解除すればリバウンドしている。いわんや自粛依存の日本では、リバウンドが常態化している。その趨勢線上では、オリンピック時にコロナが収束している可能性はゼロ。
もはや切り札はワクチンによる集団免疫の獲得しかなく、世界は急ピッチで接種を進めている。接種率はイスラエル6割超、英5割弱、米4割、EU2割(朝日、4月25日)。それに対して日本は同日のテレビでも1.32%と桁が違う。しかものろい。国家戦略物資となったワクチンの自給率はゼロ。
菅首相は、高齢者へのワクチン接種を7月末までに完了、米・ファイザーのトップに「対象者に確実に供給できるよう」電話要請して9月までに供給される目途がたったと言うが、「詳細は差し控える」(4月19~21日)。いずれにしても、7月にはオリンピックは既に始まっており、9月にはもう終わっている。これでは「ワクチン無きコロナ・オリンピック」になる。
次に、コロナとオリンピックのバランスシート。
既に海外からの一般観客は断念したので、その需要は消えた。無観客開催の場合にも、選手・IOC関係者など10万が来日しても隔離生活になれば、その面でのオリンピックの経済効果は無く、莫大な管理コストがかかるだけだ。
無観客開催なら、テレビを通じて世界のどこからでも観ることができるから、日本で開催する特段のメリットが国民にあるわけではない。チケット900億円の払い戻し負担は日本が被る。
無観客で開催して得をするのは誰か。第一に、IOCは米NBCから約1兆3000億円の放映権料が得られる(週刊文春、4月29日号)。第二に、菅首相はオリンピック開催で支持を挽回する算段だ。しかし二階幹事長の「無理ならスパッとやめなきゃ」発言と、4月25日の北海道・長野・広島の選挙での自民敗北で、菅政権の命脈は既に尽きている。
今回の宣言は効果の乏しい超短期だが、それは5月17日のバッハ来日に合わせたため。組織委は日本看護協会に看護師5日以上500人の派遣を追加要請した。あれもこれも、「コロナ対策最優先」という国の方針が「オリンピック最優先」にすり替えられている。
バッハ会長は、「緊急事態宣言は、GWと関係しているもので、東京五輪とは関係ない」と勝手放題、菅首相は「(オリンピックの)開催はIOCが権限を持っている」と責任逃れだ。
日本のトップは、IOCの顔を立てることではなく、コロナから国民を守ることが第一だ。それだけでない。日本から海外にコロナをお土産に持ちかえらせない国際的責任がある。
それらの責任を果たすにはオリンピックをやめるしかない。
オリンピック=「人類がコロナに打ち勝った証」を受け継いだ菅首相は、「打ち克った証」を得られるはずもなく、バイデン大統領に「世界の団結の象徴」と言わざるを得なかった。
いま、「世界の団結の象徴」は何か。それはコロナ対策、ワクチンの公正確保であって、オリンピックではない。オリンピックは、本当にコロナに打ち克った暁に、「人類がコロナにどう対処したかの証」として開催さるべきだ。東京オリンピックに全てを賭けてきたアスリート達には本当に申し訳ないが、私はそう思う。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日