農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2015
【現場で役立つ農薬の基礎知識2015】水稲直播栽培と雑草防除2015年12月1日
適切な防除で低コスト・省力化を実現
・早い時期の防除がポイント
・安全で安心して使える薬剤
・水の管理も重要なポイントに
・無人ヘリや動力散布で省力化を
生産者の高齢化や後継者不足などを背景に、水田農業の大規模経営化が進んでいるが、大規模経営を維持するために低コスト・省力化を実現する手法の一つとして水稲直播栽培が注目されている。そのなかでも、近年は鉄コーティング水稲直播栽培が着実に普及してきている。この直播栽培の普及拡大の鍵は、安価で安定した雑草防除の体系の構築だといわれている。今回はその直播栽培における雑草防除のポイントをまとめてみた。
米消費の減退や米価が低迷するなかでは、水稲栽培の生産コスト抑制が最重要課題である。しかし、従来からの移植栽培ではコスト抑制にも限界があるため、育苗・移植作業を行わず、省力と作業分散により経営規模拡大が可能な技術として、水稲直播栽培が注目されている。
なかでも、鉄コーティング直播は、従来の湛水土中直播に比べて、農閑期に種子の調製作業をし保管することができ、多様な播種方法にも対応ができ、スズメなどの鳥害を受けにくいといったメリットがある。
JAグループでは、水田のフル活用と農家経営の安定に役立つこと、大規模経営体の複合経営の一助とすることなどを目的とし、優れた低コスト・省力技術として、鉄コーティング水稲直播栽培の普及に取り組んでいる。その結果、年々作付面積が拡大し、26年産米では1万500haと前年より31%も増えている。
◆早い時期の防除がポイント
直播栽培での課題のひとつが雑草防除だ。
直播栽培では、播種した後、苗立ちを確保するまでの雑草管理には大きな手間がかかる。水稲の出芽前後は、除草剤に対する感受性が高く薬害を受けやすい時期だからだ。
移植栽培の植え付け深度が2~3cm以上であるのに比べて、直播栽培での播種深度は浅い。多くの除草剤は水稲の根部から吸収されやすいので、薬剤が根に当りやすく、薬害が発生しやすくなるというリスクがある。特に鉄コーティング直播は、表面播種のため、土中播種の直播よりもさらに薬剤が直接根に当りやすいというリスクがある(図1)。
(図1:表面播種と土中播種)
また、水稲用除草剤は数多くあるが、直播栽培に使用できるのは水稲への安全性の高いものに限られており、移植栽培で広く使用されている残効の長い除草剤を使いにくい。それが直播栽培で雑草防除が難しい原因となっている。
さらに鉄コーティング種子は、浸種催芽処理はされているが、その後乾燥保存されているので、カルパーコーティング種子などに比べて、出芽に日数がかかる。そのため、多くの一発処理剤が使用できるイネ1葉期以降までのきわめて早い時期に雑草防除を行うことがより重要だといえる。
◆安全で安心して使える薬剤
(図2:鉄コーティング水稲直播における雑草防除体系の例)
鉄コーティング直播での大まかな栽培体系の例を図2に示した。
代かき時に雑草がすでに芽を出している場合は、播種前の除草対策として、荒代をかくか非選択性除草剤を使用するとよいだろう。
水稲に対する安全性が高く、播種同時処理でも安心して使える直播用除草剤としては、長年、初期剤「サンバード粒剤」が使用されているが、最近は播種同時処理ができる除草剤として「プレキープ1キロ粒剤」「ヒエクリーン1キロ粒剤」が推奨されている。
「プレキープ1キロ粒剤」は「サンバード粒剤」と同じ系統の有効成分(雑草を白化させて枯らす効果がある)を2種類含む除草剤で、イネに対する安全性が高い。ノビエに対する残効が「サンバード粒剤」より長く、実用性が高いといえる。また、「ヒエクリーン1キロ粒剤」は、ノビエに対して高い効果があり、半量処理(500g/10a)が可能なので、低コスト防除が可能だが、ヒエ以外の雑草には効果を示さない。
イネ1葉期以降に使用する一発処理剤としては、ゲットスター剤が推奨されている。「ゲットスター1キロ粒剤」は、日本植物調節剤研究協会の適用性確認試験で、表面播種でも安全性が確認されている。このゲットスター剤は、テフリルトリオン(AVH―301)を含むため、SU剤抵抗性雑草を含む多くの雑草に効果が高い。特に、落水状態や浅水で発生しやすく、直播栽培で問題となるイボクサ、クサネム、アメリカセンダングサなどの特殊雑草への効果が高い除草剤だ。
また、「ゲットスター顆粒」は、直播でも水口処理が可能である。水口処理は、散布量が10a当たり80gと少量であるだけではなく、水田の水口にメッシュ袋を設置して入水とともに除草剤を流し込んで拡散させることから、散布機が不要な省力的除草技術として期待されている。
また、播種時からノビエ3葉期までと処理期間が長い薬剤として「オサキニ1キロ粒剤」がある。ホタルイ、コナギなどのSU抵抗性雑草をはじめ広範囲の雑草に効果がある直播用除草剤だ。
◆水の管理も重要なポイントに
なお、湛水直播栽培では、水管理も大事だ。苗立ちを確保するため、出芽後の芽干し期に滞水部を残さないよう、ほ場の均平度を高めることが重要だ。水管理のポイントは、代かきのしすぎを避け、日減水深が10~20mmになるように調整する。
また額縁明渠(がくぶちめいきょ)などを代かき前に設置しておくことで水管理を迅速、確実にする。こうしたことで除草剤を使用する場合でも、散布時の田面の露出を防ぐとともに、薬剤を拡散させ安定した効果を得ることができる。
日減水深を確保できれば播種後2日程度でも自然落水でき、滞水部の発生をなくせば、苗立ち不良の原因となるイネミズゾウムシ、スクミリンゴガイ、ピシウム菌、立枯病などの発生を抑制することができる。
また直播栽培では、播種後、苗立ちを確保するまでの間の雑草対策が必要となるので、移植栽培より防除が1回多くなる。もともと体系防除が必要な雑草の多い水田では、初期剤・一発処理剤・中後期剤の3回の雑草防除を考える必要がある。
◆無人ヘリや動力散布で省力化を
鉄コーティング直播での省力的な除草剤散布法として、播種機と連動した散布機による播種同時散布が普及している。さらに鉄コーティング種子は表面播種なので、無人ヘリコプターなどが利用でき、規模拡大によるコスト抑制や省力化追求によって今後さらに拡大するものと予測されている。直播栽培で無人ヘリ登録のある除草剤は前述の「プレキープ1キロ粒剤」などがある。
また、動力散布機で散布ができる薬剤「豆つぶ除草剤」を使用することで省力散布が可能になる。
豆つぶ除草剤「トップガン250グラム」「トップガンL250グラム」は10a当たりの使用量が250gと少ないので、無人ヘリコプターや動力散布機の使用時に、1キロ粒剤に比べて4倍の量を搭載できるので効率的だといえる。また、畦畔で豆つぶ剤の袋を振って直接散布したり、ひしゃくを用いて散布したりするなど、さまざまな省力的散布法がある。
(写真)乗用田植機での鉄コー播種作業(クボタ提供)、等間隔・等量の鉄コー高精度点播(クボタ提供)、無人ヘリによる鉄コーの散布(ヤンマー提供)
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