農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第2回 作物病害の病徴、標徴と生活環2019年4月19日
◆作物病害の病徴、標徴と生活環
作物の病害を防除する際に、病原の特定は欠かすことのできない作業。なぜなら、作物に害を及ぼす病原の種類によって効果のある防除対策が違うからだ。
例えば、農薬での防除を考える場合、ある農薬はAという糸状菌にはよく効くが、Bという別の糸状菌には効かないというケースは数多くある。細菌に至っては、抗生物質か銅剤、亜鉛剤くらいしか実効のある薬剤はなく、ウイルスに至っては一旦感染を許したら、治療する薬剤は無く、病気になった作物を引き抜くしか方法がない。
このため、病害防除を的確に行うためには、まず病原が何であるかを正確に把握できるかどうかがカギになる。その病原の特定に役立つのが、病徴、標徴および生活環であり、防除指導の現場では、これらをもとに診断していることが多い。
1.病徴
作物が病害にかかると作物が変調を起こし、何らかの症状が出る。例えば、葉枯れ、芽枯れ、斑点、腐敗、かいよう(タダレ状)、こぶ、がんしゅ、維管束褐変、萎凋、萎縮、ちじれ、褐変、黄変といった健康な状態とは異なる症状を示す。
ある病原菌が、ある作物に感染した場合に観察される病徴は大体決まっている。発生した時の環境条件(温度、湿度、降雨、台風等)と照らしあわせれば、多くの場合は病害が特定できるのだ。しかし、同じような症状を違う病原菌が示す場合や、見たことの無い症状が発生する場合もある。そんな時は、病原菌の分離や遺伝子検査などが必要になるため、試験研究機関に力を借りするようにする。
ただし、注意が必要なのは、作物の変調は病原菌以外の要因でも起こり得ることだ。
特に注意しなければならないのは、土壌pHや養分不足によって起こる生理障害だ。例えば、トマトの果実のお尻の部分が褐色になって腐る尻腐れ症状は、一見すると疫病や灰色かび病の症状に似ている。ところが、果実の尻腐れ症は、そのほとんどが水分ストレスやカルシウム欠乏、アンモニア過剰が原因となって発生する。
これらを見分けるポイントは、株全体や近隣の株をよく観察し、実だけではなく、葉や茎、花弁などに病斑が無いか確認することだ。病斑が見つかれば、病害の可能性が大きいし、実だけに症状が出ているようであれば土壌や養分不足による障害の可能性が大きくなる。 ただし、病害と生理障害が複合して起こる場合もあるため、尻腐れの場合は両方の要因を疑ってかかり、防除履歴や施肥履歴を確認しながら診断するとより良い。
いずれにしても、正確な診断をするためには経験が何よりも重要である。常日頃より先輩や指導機関から教わったり、図鑑などと照らし合わせて病徴を見たりして、経験を増やすように心がけたい。
2.標徴
うどんこ病のように作物の表面に白い粉(胞子)を吹いたり、菌核病のように病変部の表面にネズミの糞状の菌核を生じるなど特徴のある症状が出ることがあり、これを標徴と呼んでいる。このような場合、肉眼で識別ができるので覚えておくと良い。
3.作物病害(病原菌)の生活環
病原菌は、生まれてから死滅するまでの生活環(ライフサイクル)を持っており、それを知ることは、防除の上で重要な意味を持つ。
例えば、ナシの大敵である赤星病は、季節ごとにナシとビャクシン類の間を移り住むことが知られている。ナシ赤星病は、5~6月にナシの葉の裏側に髭状のものをつくり銹胞子を飛ばす。この銹胞子がビャクシンに感染して冬胞子堆と呼ばれるものをつくり、翌年の3月~4月の頃までビャクシンで過ごす。そして、ナシの花が咲き、ナシの葉が出てくる4月頃になると、ビャクシンの上の病斑から小生子と呼ばれる胞子を飛ばし、ナシの新葉に感染して発病する。 そして再び葉裏にヒゲ状のものを作って銹胞子を飛ばし、ビャクシンに戻るという生活を送っている。つまり、冬の間を過ごすためのビャクシンが無ければ、ナシ赤星病はライフサイクルを全うできなくなるため、ビャクシンをナシから遠ざけることが的確な防除に結びつくことになる。
ナシの産地に行くと、「ナシの大敵ビャクシン類を植えないで!」という立て看板をみることがあるが、これはそういった理由からである。
ライフサイクルがあるのは、年間を通じたものに限らず、ある病原菌が胞子を飛散させて作物に感染し、病勢を拡大して次世代をつくるサイクルのことでもある。これを伝染環と呼ぶこともあり、伝染方法と密接に関係する。
例えば、トマトの疫病の場合、発芽や感染には水が必要だ。土壌の表面などに潜んでいる遊走子のうから遊走子と呼ばれるものが吐き出され、灌水や雨水などが土壌面に落ちる。さらに、遊走子が泥跳ね水とともにトマトの葉や茎に飛び、そこから感染して発病していくというサイクルを持っている。こういうケースでは、トマトの下の土壌を跳ねないように灌水するか、雨よけをして雨水がかからないようにするか、トマトの株元にマルチや稲わらを敷いて泥跳ねを防ぐだけでも大きな発病抑制になる。
このように、病原菌がどのような伝染環でどんな風に作物に感染するかを知ることで、どのタイミングでどんな防除をすれば効率よく防除できるかがわかるようになるのだ。防除対策を組み立てる際には、防除対象となる病原の生活環・伝染環をまずは詳しく調べるようにしてほしい。
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