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シリーズ:防除学習帖

2019.08.30 
【防除学習帖】第16回 害虫の防除方法(化学的防除)一覧へ

 前回までに、害虫防除において重要な総合的防除(IPM)を実現するために重要な生物的防除や耕種的防除を紹介した。今回は、最も一般的な化学的防除、いわゆる農薬を使った防除法を紹介する。

 病害と同様に、生物的防除や耕種的防除で害虫の密度を減らした上で、化学的防除を行うと、少ない散布回数で十分な農薬の効果が得られる。

 このように、各防除法の長短所をうまく組み合わせて最大の防除効果を得るようにするのが、総合的防除(IPM)だが、その方法は、作物ごと、対象害虫ごと、地域ごとに異なる。防除を効率良く行うには、殺虫剤の特性をよく理解した上で、より効果が高くなる条件で使わなければならない。そのために必要な基礎的事項を以下に整理する。


◆殺虫剤はどうやって効くのか

 殺虫剤は字のごとく、虫を殺す薬である。その役割を果たすために殺虫剤は、虫の生命活動を司るポイントのどこかを攻撃する。その攻撃ポイントに殺虫剤が到達することによって殺虫剤の効果が出るので、まずは害虫の体内に侵入しなければならない。
 散布された殺虫剤は害虫の口(経口)や皮膚(経皮)、気門(経気門)から侵入し、害虫の体内で蓄積されたり、代謝されながら攻撃ポイントに到達すると、殺虫剤は攻撃ポイントと反応して正常な生命活動をできなくさせ、害虫を死に至らせる。
 殺虫剤の特性は、この攻撃ポイントの違いや害虫体内への侵入方法、強弱によって決まっており、殺虫剤の系列によって異なる。
 

◆殺虫剤の攻撃ポイントと効果の出方

 殺虫剤の攻撃ポイントは大きく分けて、神経に作用するもの、エネルギー代謝に作用するもの、消化器に作用するもの、ホルモン系に作用するものがある。そのうち、主なものを紹介する。

(1)神経に作用するもの
 神経は、神経細胞、軸索、樹状突起の3つから構成されるニューロンが複雑につながりあってできている。
 ニューロンには、興奮性ニューロンと抑制性ニューロンがあり、それらが対になって次のニューロンとわずかな隙間をおいてつながっている。この隙間のことをシナプスと呼び、神経信号を受信するシナプス後膜と次のニューロンに神経信号を伝えるシナプス前膜とを結ぶものが軸索である。
 シナプスの中では神経伝達物質が行きかって刺激が伝達され、または役目を果たした神経伝達物質を分解する酵素が働いて過度に刺激が伝わらないようにしている。
 シナプスにつながっている軸索では、ナトリウムチャネルと呼ばれるものがシナプスからの刺激を神経信号として伝達している。このようにして神経内を正常に信号が伝わることによって害虫の行動が制御されている。
 この神経伝達物質には興奮を伝えるアセチルコリンと興奮し過ぎるのを抑制するGABA(γアミノブチル酪酸)の2つがあり、それらを分解する酵素はアセチルコリンエステラーゼとトランスアミナーゼの2つである。 神経に作用する殺虫剤の多くは、神経伝達物質や酵素、あるいはシナプス後膜の受容体(神経伝達物質を受け取る部分)に何らかの作用を起こして、正常な神経伝達をできなくさせて殺虫効果を示す。
 以下、その作用ポイントごとに解説する。殺虫剤の種類が多数あるため、何回かに分けて紹介する。

(a)シナプス部位のアセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用
 シナプス前膜から興奮を伝えるために放出されるアセチルコリンは、正常であれば興奮を伝えた後にはアセチルコリンエステラーゼによって分解され、それ以上興奮が伝わらないようにされる。ところが、殺虫剤の成分によってアセチルコリンエステラーゼの活動がさまたげられ、アセチルコリンを分解できなくなると、アセチルコリンがシナプス部位に異常に溜まり、何度も興奮を伝え続けるようになる。この結果、害虫は異常に興奮して激しく動き回ったあげく、やがて麻痺してひっくり返って死に至る。

◎この作用を示す殺虫剤
・有機リン系(商品名:エルサン、オルトラン、ジェイエイース、スミチオン、ダーズバン、ダイアジノン、マラソンなど)
・カーバメート系(商品名:アドバンテージ、ガゼット、オリオン、オンコル、バッサ、ランネートなど)

(b)シナプス後膜のニコチン性アセチルコリン受容体活性化作用
 シナプス後膜にはアセチルコリンを受け止める受容体があるが、この受容体に殺虫成分がアセチルコリンに代わってくっつき、興奮の信号を過剰に伝え続けられる。この結果、害虫は異常に興奮して激しく動き回ったあげく、やがて麻痺してひっくり返って死に至る。

◎この作用を示す殺虫剤
・スピノシン系(商品名:スピノエース、ディアナ)



(次回に続く)


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