農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第18回 害虫の防除方法(化学的防除・3)2019年9月13日
害虫の防除方法において最も一般的な農薬による化学的防除。前回までに、害虫の神経に作用して効果を表す殺虫剤を紹介した。今回は、害虫が生きていく上で不可欠なエネルギー代謝系に作用するものと、害虫の生育を制御するものを紹介する。
(3)エネルギー代謝系に作用するもの
生物は生きていくために必要なエネルギーを細胞内でブドウ糖などの糖質を分解することによって得ている。
このエネルギー代謝は、細胞内のミトコンドリアという器官で行われており、その際にはいくつかの酵素が働いている。エネルギー代謝系に作用する殺虫剤は、殺虫剤の成分によって標的とする酵素は異なるが、酵素の働きを邪魔して生命活動に必要なエネルギーをつくれないようにすることで殺虫効果を発揮する。標的酵素別の殺虫剤は以下のとおり。
<1>呼吸鎖複合体Ⅰ(酵素)活性阻害
・METI(商品名:サンマイト、ダニトロン、ピラニカ、マイトクリーン、ハチハチ)
<2>呼吸鎖複合体Ⅱ(酵素)の活性阻害
・ベータ ケトニトリル誘導体(商品名:ダニサラバ、スターマイト)、カルボキサニリド系(商品名:ダニコング)
<3>呼吸鎖複合体Ⅲ(酵素)の活性阻害
・アセキノシル(商品名:カネマイト)、フルアクピリム(商品名:タイタロン)、ビフェナゼート(商品名:マイトコーネ)
<4>呼吸鎖複合体Ⅳ(酵素)の活性阻害
・ホスフィン系(商品名:フミトキシン)
<5>ミトコンドリアATP合成酵素の活性阻害
・ジアフェンチウロン(商品名:ガンバ)、プロパルギット(商品名:オマイト)
この他、酵素に直接作用しないが、ミトコンドリアの内膜に作用してエネルギーの生成を邪魔する殺虫剤もある。これを上記のものと区別して、酸化リン酸化脱共役剤と呼んでいる。
この作用を示す殺虫剤は、ピロール系(商品名:コテツ)。
(4)害虫の生育を制御するもの
害虫が生育する過程では、様々なホルモンや物質が働いている。それらの働きを邪魔されると、害虫は正常な生育が得られなくなり、結果として死に至る。
このような害虫の生育を制御する作用を持つ殺虫剤をIGR剤(Insect Growth Regulator)と呼んでいる。主なIGR剤の作用機構は以下のとおり。
<1>脱皮ホルモン受容体を攪乱するもの
害虫は、体内にある脱皮ホルモン受容体に脱皮ホルモンが適度に作用し、脱皮を繰り返しながら生育していく。この脱皮ホルモン受容体に、脱皮ホルモンと同様の機能を示す殺虫成分(アゴニストという)を作用させると、害虫は脱皮が促進されて異常脱皮が起こる。その結果、摂食行動がすぐにできなくなり、やがて死に至る。
この作用を示す殺虫剤は、ジアシルヒドラジン系(商品名:ファルコン、ランナー、マトリック、ロムダン)。
<2>脱皮ホルモン受容体の活性を阻害するもの
このタイプの殺虫成分は、脱皮ホルモン受容体の活性を邪魔して、脱皮をさせなくする。この結果、害虫は正常な脱皮ができなくなり、やがて死に至る。
この作用を示す殺虫剤は、シロマジン(商品名:トリガード)だが、同剤の効果は、ハエ目(ハモグリバエ科・ミギワバエ科・ハナバエ科)害虫に限られる。
<3>体内ホルモン調節機能を攪乱するもの
幼若ホルモンという幼虫の脱皮や成虫の卵巣発育に関与しているホルモンがある。この幼若ホルモンに類似している物質を害虫に作用させると、害虫体内に大量の幼若ホルモンがあふれた状態となって、ホルモン調節機能が攪乱され、やがて死に至る。
この作用を示す殺虫剤は、ピリプロキシフェン(商品名:ラノー、プルート)。
<4>キチン合成を阻害するもの
害虫の表皮にはキチンと呼ばれる重要な物質があり、昆虫体内で生合成する。このキチンの生合成を邪魔する物質を作用させると、昆虫体内でキチンがつくられなくなり、害虫は正常な脱皮ができず、やがて死に至る。
キチンの合成は脱皮時に行われるため、この作用を持つ殺虫剤を散布しても、脱皮が始まるまでは、幼虫の食害が続いてしまう。このため、食害を少なくするには、出来るだけ幼虫が小さい、発生初期に使用する方がよい。
この作用を示す殺虫剤は、ベンゾイル尿素系(商品名:アタブロン、カウンター、カスケード、ノーモルト、マッチ)とブプロフェジン[カメムシ目へ作用](商品名:アプロード)がある。
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