農薬:防除学習帖
トマト防除暦の作成52【防除学習帖】第186回2023年2月4日
現在、防除学習帖では、トマトの病害虫雑草の生態や防除法を紹介している。前回までに病害を一通り紹介したが、土壌消毒については別途整理としていた。土壌消毒法については病害虫雑草すべてに共通するので、ここで一旦整理して紹介する。
1.土壌消毒剤の防除対象となる主なトマト土壌病害虫2.土壌消毒の必要性
トマトは作型によっては年間を通じての栽培となることが多く、萎凋病や細菌病、センチュウ類など特定の病害虫が増殖し、連作障害となることもある。この連作障害を回避するためには、土壌中に有害物質が蓄積したり、土壌病害虫を優先化させないようにすることが基本で、土壌改良を行ったり、同じ圃場に同じ作物を連続で作付けしない(最低2~3年)ようにすれば、連作障害は回避できる。しかしながら、トマト栽培の場合、輪作を行うことが難しい場合も多く、また、農業経営的には、短期間で連作障害の要因を排除しなければならないことも多い。そういった時に、土壌消毒が必要になる。
3. 各種土壌消毒法
(1)太陽熱消毒
土壌病害虫雑草、ウイルスに有効。十分な水分を入れ、ビニールなどで被覆した土壌に太陽の熱をしっかりとあて、被覆内の温度を上昇させて蒸し焼き状態にすることで、中にいる土壌病害虫を死滅させる方法である。
連作障害を起こすたいがいの病害虫は、およそ60℃の温度で死滅してしまうため、原因病害虫の潜む土壌深度までこの温度に到達させることができるかどうかで成否が分かれる。太陽光でこの温度まで上昇させるためには、施設を密閉して十分な太陽光を当てる必要があり、夏場にカンカン照りになる西南暖地などの施設栽培向きの消毒法といえる。夏場でも日射量が少ない地域では、地中温度を60℃に到達させることができない場合もあるので、そのような地域には、次の土壌還元消毒法の方が向いていることが多い。
処理に長期間を要するので、作型によっては利用できない場合がある。
(2)土壌還元消毒法
土壌病害虫雑草、ウイルスに有効。この方法は、フスマや米ぬかなど、分解されやすい有機物を土壌に混入した上で、土壌を水で満たし(じゃぶじゃぶのプール状)、太陽熱による加熱を行うものである。これにより、土壌に混入された有機物をエサにして土壌中にいる微生物が活発に増殖することで土壌の酸素を消費して還元状態にし、病原菌を窒息させて死滅させることができる。この他、有機物から出る有機酸も病原菌に影響しているようだ。このため、有機物を入れない太陽熱消毒よりも低温で効果を示すので、北日本など日照の少ない地域でも利用が可能な方法である。還元作用により悪臭(どぶ臭)が発生するので、この臭いがするまで十分な期間がおく必要がある。また、近隣に住居があるような圃場では臭いの発生に注意が必要である。
処理に長期間を要するので、作型によっては利用できない場合がある。
(3)蒸気・熱水消毒
土壌病害虫雑草、ウイルスに有効。文字通り、土壌に蒸気や熱水を注入し、土壌中の温度を上昇させて消毒する方法である。病害虫を死滅させる原理は太陽熱と同じで、いかに土壌内部温度を60℃にまで上昇させるかが鍵である。この方法を実施するには、お湯や蒸気を発生させるためのボイラーや土壌に均一に注入するための設備や装置が必須である。このため、導入のための設備投資と大量に消費する燃料のコストを考慮する必要があるので、個人での導入というより、地域一体となった共同利用といった大掛かりな取り組み向けの技術である。
(4)土壌消毒剤による消毒
効果の安定性やコスト面から考えても、現在の土壌消毒技術で最も一般的なのが土壌消毒剤の使用である。土壌消毒剤には、揮発性で臭気や刺激性のガスを発生させるものが多いので、使用する場合には、作業者の安全、近隣の安全を十分に考慮し、被覆を行うなど、使用ルールを確実に守ることが重要だ。その特性や効果の範囲を別表に整理したので、それらを良く把握した上で、効率よく安全にご使用願いたい。以下に主な成分の特性を示す。
【クロルピクリン(商品名:クロールピクリン、ドジョウピクリンなど)】
揮発性の液体で、土壌に注入することで効果を発揮する。激しい刺激臭がするので、使用時は、防毒マスク、保護メガネ、ゴム手袋など保護具の着用が必須である。その反面、ガス抜けが早いので、ガス抜き作業が基本的に不要なのが特徴である。最近では、灌注機や同時マルチ機などが普及し、より安全により楽に処理できるようになっているので可能であれば利用したい。クロルピクリン剤をPVAフィルムに封入し、土壌に埋設するだけの簡単処理ができるようにしたクロピクテープやクロピク錠剤があるので適宜使用するとよい。主に、フザリウム病など土壌病害に効果を発揮する。
【D-D(商品名:D-D、DC油剤、テロン)】
主に、土壌センチュウに効果を発揮する。クロルピクリンに比べ、ガス抜けが悪いので、丁寧に耕起して、ガス抜き期間3~4日を確実において作付けに移る。ガス抜きが不十分だと薬害が起こるので注意が必要。
【クロルピクリン・D-D剤(商品名:ソイリーン、ダブルストッパー)】
クロルピクリンとD-Dを効率的に配合し、両成分の長所を活かした製剤とすることで幅広い病害虫雑草に効果を示す。刺激臭も、有効成分単剤のものより少なくなっており、比較的扱いやすい土壌消毒剤である。D-D同様、ラベル記載とおりのガス抜き期間をきちんと取る必要がある。
【ダゾメット(商品名:ガスタード微粒剤、バスアミド微粒剤)】
微粒剤を土壌に均一散布し、土壌の水分に反応して、有効成分であるMITC(メチルイソシアネート)を出して効果を発揮する。そのため、処理時には適度な水分が必要であり、ガス抜きも10~14日と比較的長い期間が必要である。主に土壌病害に効果を示す。
各種土壌消毒剤と適用内容(概要)
(5)土壌処理粒剤による防除
一般の土壌消毒剤のようにくん蒸するものではなく、土壌中に薬剤を均一に散布、混和することによって土壌中の病害虫を防除するものである。効果の成否は、土壌中にいる病害虫に薬剤をいかに接触させるかにかかっており、土壌中での均一な混和が必要である。
土壌中の病害虫の密度があまりにも多い場合には効果が不安定になる場合があるので、そのような場合には、一旦土壌消毒剤によるくん蒸処理によって病害虫密度を下げたあとに使用すると効果が安定する。
【粒剤タイプの線虫剤】
ネマトリン、ネマキック、ラグビーなど
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