農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(5)【防除学習帖】 第244回2024年4月6日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にKPIをクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探る必要がある。そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、どのようにIPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか検討してみたいと考えている。
IPM防除は、化学農薬による化学的防除に加え、化学的防除以外の防除法である①生物的防除や②物理的防除、③耕種的防除を効率よく組み合わせて防除するものである。化学的防除に関しては、既に検証・紹介し、みどり戦略対策の考え方を一定程度整理したので、その次の段階として化学的防除以外の防除法にどのような技術があるのか、その詳細を紹介しながら、導入にあたっての留意点を紹介している。
現在、生物農薬による病害虫防除を紹介しており、今回は害虫防除に利用される生物農薬(BT以外)を紹介する。
現在、殺虫剤として農薬登録されている生物農薬は、大きく分けて天敵昆虫と天敵微生物の2つに分類できる。前者は、昆虫捕食性の昆虫やダニを有効成分とし、多くが、天敵そのものを圃場内に放飼して使用する。一方の天敵微生物は、昆虫を発病させて死に至らしめる糸状菌や細菌、ウイルスを有効成分とするもので、もっぱら水希釈して作物に散布して使用する。今回は、天敵昆虫を有効成分とする生物農薬を紹介する。
1.害虫防除に利用できる天敵昆虫とは?
天敵昆虫(カブリダニを含む)は、害虫を捕食して防除効果を発揮する。その有効成分となる天敵と防除対象害虫を次表に整理したが、カブリダニ類やコバチ類などがよく使用されている。当然ながら、天敵が食べる害虫種は限られているため、発生する害虫種を横断的に防除できるものではない。なので、天敵で防除する害虫を1つ決めて、それ以外の害虫については、天敵に影響の無い殺虫剤を選んで防除する必要がある。天敵を放飼している期間は、殺菌剤であっても、天敵影響の少ないものを選んで散布する必要がある。天敵も生きるために害虫を捕食するので、ある程度害虫の数がいないと天敵が作物に定着して防除効果を発揮することができないので、適宜、バンカシートなど天敵の隠れ家(待機場所)を作ってあげる必要がある。このあたりの上手な使用方法は天敵の種類によって異なるので、使用上の用法、用量、注意事項を確実に守って正しく使用するようにしてほしい。初めて導入する場合には、天敵の癖が分かるまで小規模での導入で上手な使用方法を習熟し、慣れてきたら導入面積を増やすなど、十分なお試し期間を設けた上で本格導入を目指してほしい。
2.天敵を有効成分とする生物農薬(殺虫剤)
天敵を有効成分とする生物農薬(殺虫剤)は、次表のとおりである。一部天敵は複数の害虫を防除できるものもあるが、一般的には防除できる害虫が1つである場合も多いので、対象害虫や対象作物をよく確認した上で導入を検討してほしい。次表に示したのは、作物類登録のある天敵農薬を整理しており、類ではない作物単体で登録を持っているものも多いので、農薬ラベルをよく読んで用法・用量を確実に守るようにしてほしい。
また、生物農薬は飼育・増殖させるのに手間取り、製品の単価が高いことが多い。このため、収益性の高い作物でないでないと導入コストを賄えない場合も多いので、導入の際には収支面の検討も忘れてはならない。
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