農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(56)【防除学習帖】第295回2025年4月26日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
みどり戦略対策に向けたIPM防除でも、必要な場面では化学的防除を使用し、化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせて防除効果の最大化を狙うのだが、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できるようにするためには、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理すると、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道が探れると考えている。そのため、有効成分の作用機構ごとに分類し、RACコードの順番に整理を試みている。現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
23.ジカルボキシイミド
(1)作用機構:[E]シグナル伝達
(2)作用点: 浸透圧シグナル伝達におけるMAP・ヒスチジンキナーゼ(os-1,Daf1)
(3)グループ名:ジカルボキシイミド[グループコード:[2]
(4)殺菌剤の耐性リスク:中~高
(5)耐性菌の発生状況:野菜類灰色かび病(Botrytis) を中心に発生
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
[1]ジカルボキシイミド/イプロジオン(ロブラール)
[2]ジカルボキシイミド/プロシミドン(スミレックス)
(7)グループの特性:
このグループ[2]は、病原菌が生命活動を行う際に必要なシグナル伝達経路の一部に作用して、細胞の正常な働きを阻害し、正常な生存や増殖をできなくさせる作用がある。
シグナル伝達とは、細胞が外部の刺激を感知して、細胞内の機能を調節する仕組みであり、これにより、細胞の機能変化や遺伝子の発現を制御したり、細胞の生存や分化を調整したり、細胞の増殖や成長、運動、生存などの細胞反応を誘発させて細胞の運命を決めさせたりする。このシグナル伝達系の機能や役割は生物種によって多種多様であり、それぞれの生活環境に応じて生存戦略を発揮する働きをする。同様の作用機構であるグループ[12]とは阻害する部位が異なり、交差耐性が認められないため、別グループとされている。
本グループに属するイプロジオンとプロシミドンは、浸透移行性を有しており、治療効果と予防効果を合わせ持っており、残効性や耐雨性にも優れる。主として炭疽病や菌核病といった子のう菌類や灰色かび病など不完全菌類を病原とする病害に高い効果を示す。
このグループの耐性菌発生リスクは中~高いとされており、野菜類灰色かび病を中心に、耐性菌が広く発生している。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
このグループに属するイプロジオンおよびプロシミドンのリスク換算係数はいずれも0. 1 であり、その基準年出荷量は合わせて約12トンである。本グループの薬剤は、治療効果に優れる貴重な殺菌剤であることから、耐性菌の発生していない病害防除にはローテーション防除など耐性菌対策を施しながら使用する方が得策である。残念ながら、灰色かび病には高度な耐性菌が存在するので、耐性菌が発生している地域では使用を避け、耐性菌が発生していない地域では、貴重な特効薬でもあるので、十分な耐性菌対策を実施しながら注意して使用する方が得策と考えられる。
(9)ジカルボキシイミド剤の農薬登録がある主要病原菌一覧
ジカルボキシイミド剤の農薬登録がある主要作物・病害名・病原菌の一覧を次表に示した。
これらは、ジカルボキシイミド剤(イプロジオン、プロシミドン)が農薬登録を取得している作物・病害を整理したもので、本グループの有効成分が活性を示す病原菌群を示したものである。このため、実際の製品ごとの農薬登録内容と異なる場合があるので、あくまで防除できる可能性のある病原菌の参考にとどめ、実際の使用前には必ず農薬ラベルにて登録内容(作物・病害名)を確認して正しく使用するようにしてほしい。
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