価格転嫁拒否は「違法」 公取委が日本郵便を指導 運転手の待遇改善、物流維持に不可欠2025年1月8日
「ゆうパック」の配送を委託した運送業者から求められたコスト増の価格転嫁に応じなかったとして、公正取引委員会(公取委)が日本郵便を下請法違反(買いたたき)の疑いで指導したことがわかった。働き方改革で物流が滞る「2024年問題」の解決には適正な価格転嫁が必要で、公取委などの監督も厳しさを増している。
「買いたたき」に加え、高い「違約金」も
中小企業庁は2023年2月、物価高騰によるコスト増が下請け業者の取引価格に転嫁されているかを調査。発注元150社のうち、日本郵便は「最低評価」だった。総務省の指導もあり、日本郵便は23年4月「対応改善」を表明した。しかしその後も、十分に協議せず委託料引き上げ要請に応じなかったり、引き上げが不十分な事例があったという。
公取委は、それらが下請法違反の「買いたたき」にあたる疑いがあるとし、是正を指導したと、朝日新聞(1月8日付)が報じた。日本郵便は、ゆうパックを配達する委託業者の運転手の「誤配」や「喫煙」などで顧客からクレームがあると、委託業者から高額な違約金を取った件でも公取委から指導を受けている。多くの委託業者は運転手に違約金を負担させていたとされる。
2024年問題の解決は道半ば
物流業界関係者は、「荷主が運送会社に決めごとをどう守らせるかはそれぞれだが、委託先の運転手に事実上の"罰金"を払わせるというのは聞いたことがなく、おかしい。他方、コスト増が委託料に適正に転嫁されないことは残念ながらまだまだある。これでは、運転手の待遇が上がらないので人手不足がひどくなるばかりで、適正な価格転嫁と待遇改善が重要だ」と話す。
国土交通省によると、トラック業界で働く運転手は、労働時間が全産業平均より約2割(400~450時間)長く、年間賃金は5~15%(20万~60万円)安い。そのため、慢性的な担い手不足に陥っており、そこに働き方改革による労働時間規制が始まれば「モノが運べなくなる」との懸念が広がったのが2024年問題だった。年が変わっても、問題解決の努力は道半ばだ。
「モノを運ぶ委託」にも下請法適用の方向
政府は、荷主、物流事業者に商慣行見直し、荷待ち・荷役時間の削減を求めるとともに、下請法を改正して「輸送委託」を規制対象に加え、取引適正化を強く迫ろうとしている。
2024年12月17日に開かれた公取委と中小企業庁の「企業取引研究会」(座長:神田秀樹東京大学名誉教授)で案が示された。それによると、荷主が運送事業者に輸送を委託する取引が下請法の適用対象に加えられるほか、コスト増による価格協議の申し出に応じないなど「一方的に下請代金を決定して、下請事業者の利益を不当に害する行為」を規制する。すでにある「買いたたき」(禁止)は金額に着眼した規制だが、この新規制は「実効的な価格交渉」の有無を見るものといえる。
ゆうパックの配送委託料を見直す協議に応じなかった日本郵便への指導は「買いたたき」を根拠としているが、下請け法改正で新設されようとしている「一方的決定」にもあたりうると思われる。
農畜産物輸送も対象に
日本郵便の一件は他山の石である。こうした改正がなされれば、産地からの農畜産物の運送に運送業者を使う場合にも、下請法が適用されることになる。軽油代や運転手の賃金が上がっているのに運送業者が求めた運送料改定に応じなければ、下請法違反に問われかねない。
「賃上げと適正な価格転嫁」は経済好循環の肝であり、農畜産物の合理的な価格形成にも追い風だ。食と農にとって物流が大切だからこそ、法廷遵守はもちろん、担い手の待遇改善にどう向き合っていくか、問われている。
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