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シリーズ:食は医力

【浅野純次 / 石橋湛山記念財団理事】

2015.03.19 
【シリーズ・食は医力】第71回 イワシお嫌いですか?一覧へ

 わが家の食卓に上る魚介類のトップはイワシですが、冬場はサンマがライバルになります。
 イワシは店頭で一匹70?80円のことが多く、安いほうの最右翼でしょう。でもあまり人気がないようです。

◆今も昔も漁獲量トップ

 考えられる理由は、まず切り身でないこと。今の若い人は買うのは切り身だけ、というくらい一匹まるごとは敬遠しているようですね。食べにくい、調理がしにくい、骨や内臓などゴミが出るのがいや、ということなのか。それと、小骨が多いので、箸使いが苦手な若い世代は面倒なのでしょう。
 魚屋さんでいつも内臓だけ出してもらっています。頭も取ってもらう人が多いようですが、わが家は尾頭付きで食卓に登場します。
 イワシは昔から大量に取れる魚の代表で、今でも漁獲量ではトップです。明治時代など取れすぎて浜に落ちているイワシなど猫も見向きもしないなどという話がありました。
 江戸時代、明治時代は食べるよりも、むしろ農家の肥料として重宝されていました(これを「金肥」つまり金銭を払って買い入れる肥料と呼んでいたとか)。漁師だけでなく、浜で網引きなどを手伝った近在の人々が駄賃代わりに受け取って雑魚として食していたようです。

 

◆豊富なDHAとEPA

 戦後しばらくイワシは貴重な蛋白源でしたが、いつの頃からか軽んじられるようになりました。高価なマグロばかり物色せず、イワシをもっとたくさん食べてはどうでしょうか。
 なぜイワシをお勧めするか。もちろん栄養の宝庫だからですが、青魚だけあってDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった不飽和脂肪酸がたくさんあり、成人病を防止するにこんなに安くて効果的な食物はありません。
 DHAやEPAは中性脂肪を減らす効果があるほか、頭の細胞を活性化する働きもあります。DHAのサプリメントが受験生の親に人気だということは、逆に痴呆防止にイワシを日頃、活用してはどうかという話につながるのではないでしょうか。
 ビタミンも忘れてはいけなくて、A、B群、Dなどが豊富に含まれています。ミネラル、特にカルシウムとDが多いことは骨や歯を丈夫にするに適していて、とりわけメザシやジャコ、シラス(いずれもイワシの稚魚)を一物全体で食べるのはお勧めです。

 

◆和泉式部の大好物だった

 私の好きな話に、平安の女流歌人、和泉式部はイワシが大好物だったという逸話があり、再婚の夫、藤原安昌は「イワシは女の肌を潤す」と言ってそれを歓迎したと言います。
 肌のみならず、式部がすばらしい詠歌を多作したのはイワシのせいだったかもしれません。夫のほうもイワシで頭をクリアに保ち続ければ、これは幸せなカップルということになります。お宅はいかがでしょうか。
 ついでに格言をいくつか。「イワシの頭は鴨の味」はちょっと苦味があるが美味だということ。「イワシの煮付けにショウガと梅干」は一緒に煮ることで煮付けから匂いが消え味も良くなるというアドバイスです。
 「イワシ百匹、頭の薬」ですが、イワシのリボ核酸が脳の記憶物質を作り出していることを昔の人はうっすら感じていたのでしょうかね。「イワシは海の人参」。ここでの人参は朝鮮人参です。 
 最後にイワシは鰯と書く、つまり弱い魚というのは誰でも知っています。これは文字どおりひ弱さを言う説と、鮮度落ちが早い意味の二説があります。
 面白いことにイケス(生簀)にイワシだけ入れるとすぐ死んでしまうのに、イワシを餌にするような大きな魚を入れると逃げ回ってなかなか死なないそうです。緊張感が必要なのは人間だけではないようですね。
 それはともかく今さらイワシなんてなどと言わず、イワシ料理で食のバラエティと健康を補強していきたいものです。

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