流通:激変する食品スーパー
【第3回】「チキンレース」加速 淘汰・合従連衡が日常に2015年6月1日
エリアを越えた競争人口減少下で新たな動き
日本の小売業の店舗数は、先進国の中で際立って多いことがよく指摘される。食品スーパーも2000年前後までは、同じ都道府県の中にあっても複数のチェーン店舗が競合しながら、棲み分けを図ってきたのが実情だ。
◆崩壊した棲み分け
この要因はいくつかあるのだが、もともとは地域によるライフスタイルの違いと鮮度を重視する買物志向による影響が強いと言える。特に、鮮度面では保存技術や物流機能が確立されておらず、営業エリアが拡大すると品揃えにバラつきがでるなど、オペレーション面での制約が強かった。加えて、日本人の食文化は地域・地方ごとで異なり、画一的な品揃えではニーズに応えきれないという理由がある。
しかし、近年は状況が一変している。競争は激化し、地方では競合するスーパーの主力店のすぐそばに新規出店を行い「チキンレース」を仕掛けるなどの動きが目立っている。既に棲み分けは崩壊し、都道府県レベルでは、強力な市場リーダーと競争を仕掛けるチャレンジャーしか生き残れない状況になりつつある。そこに、日本全体で深刻化する人口減少の問題がさらに拍車をかけている。市場規模は縮小するにもかかわらず、各チェーンが成長路線を目指すため、必然的に上記のような「チキンレース」がますます加速してしまうのである。今後、業界内での淘汰や合従連衡は日常茶飯事のようになるだろう。
エリア内での競争に勝ち残ればそれでひと安心とはいかない。今度は、戦国時代のようにエリアを超えた競争が待っているのである。
◆首都圏で競合激化
その動きがここのところ一番顕著なのが、東京を中心とする首都圏である。茨城県を地盤とするカスミ(現在は、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス〈以下USMH〉に統合)が東京都内に出店している。USMHには、東京都を地盤とするマックスバリュとマルエツが加わっており、今後の東京出店は不透明だが、茨城県内の競争激化を意識した対抗策であるのは間違いない。なぜなら、福島県を地盤とするヨークベニマルが茨城県内への新規出店を強めており(現在茨城県内には32店舗を展開)、カスミとしては新たな需要開拓に向けて、肥沃な市場規模を持つ首都圏の足掛かりを求めていると考えられるからである。
また、群馬県を地盤とするベイシアも東京進出を果たしている。昨年、圏央道が東名高速、中央道、関越道とつながり北関東から西東京、神奈川エリアのアクセスが格段に向上した。北関東エリアは人口減少が加速しており、これまで蓄積したノウハウを活用すれば「首都圏攻略に勝機あり」と判断したのだろう。
ベイシアは、生活に密着した衣食住を総合的に取り扱う「スーパーセンター」を主力として事業展開を行っており、東京1号店はスーパーセンターでの出店だった。それに加え、食品を中心に購買頻度の高い商品に絞って品揃えを行う「スーパーマーケット」を2010年から展開している。
スーパーマーケットの方が狭い用地で対応でき、出店の可能性は高まる。そもそも首都圏では、数多くの専門店が密集して展開し、お客は必ずしも衣食住のワンストップショッピングを重要視していない。そのため、購買頻度の高い食品に特化したスーパーマーケットをベイシアが今後、首都圏で集中的に展開するのが理にかなっているのである。
一方、競合店舗との戦いは激化しており、攻略は一筋縄ではいかない。いかに、競合店舗との戦いに優位性を築き、首都圏内における地位を確立するか。それができれば、販売効率の高いエリアを獲得できるだろう。今後はスーパーマーケットを視野に入れた動きに注目したい。より都心部への出店を進めれば、同業態のオーケーと直接ぶつかりあうのは必至だ。
ベイシアのように数少ない人口増加エリアである首都圏への進出を狙っている同業他社は少なくない。また、このようなエリアを超えた戦いは首都圏以外でも既に始まっている。
◆流通機能集約進む
スーパーの現場もまた大きな地殻変動が起こっている。冒頭述べたように、地域・地方の実情に合った細かいニーズに対する取り組みである。本部の一元管理からエリアごと、または店舗ごとの権限移譲を進める動きが顕著だ。当然、権限移譲にもメリット・デメリットがある。いずれは、本部の一元管理への揺り戻しが起こるにしても、しばらくは店舗サイドへの権限移譲が大きな流れとして進んでいくだろう(「本部管理」と「店舗管理」については、後日改めて紹介したいと思っている)。こうなると、バイヤーや店長、部門マネジャーの役割だけでなく、仕入や商品構成にも大きな影響を与えるのは間違いない。
大きな動きは他にもある。流通機能の集約化だ。一部の地方ではすでにその傾向が表れている。
競争の激化により業界内の淘汰や合従連衡が進むと、市場の取引量が急激に減る場合がある。その結果、取扱商品が絞り込まれる、取引数量が減少する、相場が成立しにくい、または仕入れ価格が高騰しやすいなどの弊害が生まれやすい。場合によっては、市場が機能しなくなり、必要な商品を仕入れることができず(買物難民ならぬ仕入難民の発生)に、事業継続に負担が増えるケースもあり得る。
生産者にとっても大きな脅威となるので、この動向には注意を払う必要がある。
(図)人口増加エリア・首都圏へ続々出店
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