流通:激変する食品スーパー
【第7回】カット野菜 今後の食生活変える必需品2015年9月25日
かつて食品スーパーのカット野菜と言えば、相場高騰時の代替品としての認識が強かった。しかし、近年、緩やかであるものの確実に市場規模は拡大している。
独立行政法人農畜産業振興機構が行った「平成24年度カット野菜小売販売動向調査事業(平成25年5月発表)」によると、そのスーパーマーケットにおける市場規模は605億円とされている。また、キューピー(株)を親会社とするカット野菜の加工専門会社のサラダクラブは、平成12年に3億円だった売上が現在では229億円(2014年11月期、対前年比11.2%増)と大きく成長し、市場規模もさらに拡大しつつある。
こうした状況を受け、新店出店時の目玉としてカット野菜コーナーの充実を掲げる食品スーパーが増えている。20尺以上のスペースを確保し、売場トップに配置する力の入れようだ。売場での存在感が高まったことで、相場価格が安定している時でも販売が減少せず、一定の支持を集めている。
カット野菜はサラダなど「生食用途」と、炒め物や煮物・鍋等に利用される「調理用途」に大きく分けられる。ほとんどの企業・店舗で両方を品揃えし、少なくても10SKU(Stock Keeping Unit:最小管理単位の略で、小売業で商品を管理する際の最小単位を指す)、多いところでは40SKUほど取り扱う。
価格は100円弱~400円弱の設定で販売されるのが一般的だ。容量を大きくして、値頃感を出す工夫や1日の野菜の目標摂取量を意識した商品づくりなどの取り組みが進んでいる。
◆品揃え限定する短い消費期限
このように拡がりを見せるカット野菜ではあるが、目下の課題は「消費期限の短さ」にある。サラダクラブでは、今年4月より一部の商品の消費期限を1日伸ばし、「D+5(製造日の翌日から5日間)」にするなど改善の兆しはみられる。しかし、カット野菜の流通が浸透しているアメリカでは「D+7~10」の商品が主流であり、大きな開きがあるのは否めない。
たかだか2日と思われるかもしれないが、日本ではこの「消費期限の短さ」が大きなネックとなっている。
よく指摘されるのが、値下げや廃棄によるロス増大だ。短いところでは、入荷した翌日、既に値下げ販売を行っている店舗もあり、そのため、午前中から値下げシールが貼られているケースが散見される。
常態的に値下げシールが貼られている売場では価格に対する認識が値下げされた価格に近付いてしまう。つまりお客様に「カット野菜は半額で購入できる」ようなイメージが刷り込まれ、通常売価での販売を難しくする要因の一つになってしまうのだ。
デメリットはそれだけではない。消費期限の短さは商品を限定的な品揃えに留まらせてしまう。アメリカの代表的なグルメスーパーである「Wegmans(ウェグマン)」のカット野菜コーナーは40尺以上あり、140SKUを品揃えしている。カット野菜は店内加工でも提供され、それらを合わせると170SKUもの商品を展開していることになる。幅広く、かつ深掘りされた品揃えは売場の核となる専門性を持ち合わせ、競合他店との差別化の要素として力を発揮する。
一方、日本では消費期限が短いため販売量に応じた陳列量に限定され、総体的にボリューム感の乏しい売場になりやすい。結果、オープン時は華やかだったカット野菜コーナーが売場維持に四苦八苦し、徐々に存在感が薄くなってしまうことも珍しくない。
もちろん、販売規模や人件費などのコスト面の違いもあり、アメリカの例を即座に当てはめることは難しい。日本のカット野菜は「目新しさ」の訴求に留まり、ウェグマンのような「専門性の追求」や「新たな価値の創造」という魅力を引き出せないでいるのもまた事実である。新たな需要創出に向けた取り組みが不可欠と言えよう。
◆野菜市場拡大のカギを握る
消費期限の延長は一企業の努力だけでは限界がある。生産者、加工業者、食品スーパー、それぞれの関係者が一致団結して、「全体最適」を目指さなければ大きな変革は期待できないだろう。
生産段階で一番のネックとなるのが「コールドチェーン構築の難しさ」である。アメリカでは、収穫時点から温度管理が徹底され一定の温度状態で商品加工・供給されている。もちろん大規模生産が前提だからこその取り組みであるのは重々承知している。だからと言って、それを日本の生産者や加工業者が「できない理由」に挙げているのであれば、ライフスタイルや食生活の変化にはいつまでたっても追いつけないだろう。
カット野菜の充実は、少子高齢化を突き進む日本にとって食生活を支える必需品となる。今は変えられなくても「できる方法」を模索しなければならない。変化は必然であり、素材提供だけで青果売場が成り立たない時代はそう遠くない時代に訪れるだろう。
最後に、カット野菜の「鮮度」について触れておきたい。
鮮度を求めるお客様は少なくないが、カット野菜における小売店の安易な値下げ対応には私自身疑問を感じている。先程指摘した通り、生産地からの一貫したコールドチェーン構築には時間はかかる。しかしながら、加工方法や包材では技術向上は格段に進んでいる。加工時点における鮮度・品質は、入荷時点で維持されているのだ。購入後すぐ利用するお客様が多いことを踏まえれば、値下げ以外の販売方法の工夫やその確立がカット野菜市場のさらなる拡大のカギを握る。
「消費期限の延長」には時間がかかるが、まずはそれを許容してもらう取り組みが食品スーパーから起こることを期待している。「鮮度」を言い訳とした安易な値下げ対応の回避が最初の一歩といえよう。
(写真)アメリカ「Wegmans(ウェグマン)」のカット野菜コーナー
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