流通:激変する食品スーパー
第8回「オーガニック野菜」市場活性化に向けた取組みが2015年10月27日
仕入原価や人件費、資材包材など食品スーパーにとってはこれまで以上にコスト増大の圧力が増している。「価格訴求」は購買への大きな動機付けとなるが、無闇な価格競争は体力を削ぐだけと、新たな差別化に向けて舵を取る企業は少なくない。差別化の要素の一つに「オーガニック」を掲げるところが目立ってきている。今回は、青果物を中心としたスーパーにおけるオーガニックの可能性について説明したい。
◆日本市場では横ばい
日本のオーガニックは、2000(平成12)年に有機(オーガニック)認証制度が制定されて以降、市場拡大への取り組みを行ってきたが、残念ながらお客様の大きな支持を獲得するまでには至っていない。最新のデータではないが、オーガニックマーケットリサーチプロジェクトが実施した「日本におけるオーガニック・マーケット調査報告書」によると、日本における市場規模は1300億~1400億円と推定され、ここ数年は横ばい傾向である。
青果売場を見ると、その要因がつかめてくる。大きな問題点は3つあると考える。
1つ目に売場位置の問題。これまでオーガニックを補完的な役割として扱ってきた食品スーパーが多く、売場の奥や柱周りなど来店客の目に留まりにくい場所に展開されることが多かった。そのため、訴求力が乏しく、商品を探しにくい状態を招いている。
2つ目は鮮度の問題。売場位置の問題と関連して、スーパーでのオーガニックの商品回転率が悪いため、鮮度落ちの商品が売場に並んでいるのが当たり前のようになってしまう。そのため、買いたいお客様が商品を手にとっても魅力を感じず、機会損失を発生している場合が多い。目立たないから売れない→売れないから鮮度が落ちる→鮮度が落ちるからさらに売れない→売れないから売場が縮小されさらに目立たなくなるという悪循環を引き起こしてしまっているのだ。
3つ目は差別化の問題である。現在もそうであるが、日本の農作物は「安心・安全」のイメージが定着している。それが、残念ながらオーガニックと通常品との違いを曖昧にさせている要因ともなっている。商品を見ても通常品とどこが異なるのか、分からないお客さまがほとんどなのだ。違いが分からなければ、鮮度の良いもの、価格の安いものに手が伸びるのは自明の理と言える。
これらの要因により、認証制度が開始された直後は大いに注目され、生産者・小売業共にかなり期待をかけていたオーガニック市場ではあるが、成功しているとは言い難い状況となっている。
◆米国では10倍以上に成長
一方で、欧米におけるオーガニック市場は大きく成長している。
特にアメリカでは、市場規模が前年比11.3%増の391億ドル(1ドル=120円換算で、約4兆6800億円)であり、ここ数年は2ケタ増が続き、また20年弱で10倍以上に成長しており、日本とは対照的な動きを示している。つまり、それだけアメリカではオーガニック食品が、人々の生活に根付き、既に市民権を得ているのだ。
その要因の1つが、Whole Foods Markets(ホールフーズマーケット)のような、オーガニックに力を入れて全米各地に展開する食品スーパーの存在だ。アメリカの食品スーパーでは、オーガニックを付加価値として販売できるノウハウやシステムが構築され、多店舗化にも対応できるフォーマットを確立されていることを意味している。さらに、ホールフーズマーケットのような付加価値型の食品スーパーだけでなく、Wal-Mart(ウォルマート)やKroger(クローガー)のような大手チェーンも積極的にオーガニックの販売を強化している。
アメリカオーガニック貿易協会によると、オーガニックを購入する78%の人が「オーガニックのみにこだわって買い物をしていない」と回答している。つまり、アメリカでは「安全・安心」や「健康」志向の高い人だけはなく、幅広い層までオーガニックの購入が進んでいるのだ。こだわり層だけでなく、日常生活の中にオーガニックを浸透させたことがアメリカの市場拡大につながっている。これを踏まえると、アメリカのオーガニック市場は日本の2歩、3歩先を行っていると考えられる。
◆違い明確にする知恵を
残念ながら、日本ではまだこのような動きは小さい。しかし、オーガニック市場の活性化に向けた新たな取り組みが出始めている。
イオンでは、昨年よりPBの中にオーガニックシリーズを展開し、120品目を取り扱っている。一部店舗では、お客様に目立つように売場の先頭でオーガニックコーナーを設け、存在感を高め、購入機会の増大に努めている。また、パッケージも刷新し、商品の情報提供の充実と売場全体での統一感作りに役立ており、これまでの反省を踏まえながら、差別化を意識した第一歩を踏み出している。
生産者にとっても、オーガニック市場の拡大は大きなチャンスとなる。その果実を得るには、小売業と連携しながら、通常品との違いをどのように発信していくかが喫緊の課題と言える。
例えば、ホールフーズマーケットでは、独自に栽培地の環境における基準を設け、ランク分けをし、店舗での推奨に役立てている。
「いいもの」を作るだけでなく、どのように情報を発信し、違いを明確にするか、知恵比べが求められている。それが、「安全・安心」意識の高い日本の消費者を率先してオーガニックを購入させるきっかけ作りにもなるのではないか。
(写真)ホールフーズでは、店内で栽培地の基準を示しアピールしている
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