食料・飼料で昆虫活用の未来を探る 国際シンポ2016年11月30日
農研機構と農水省は11月29日に東京都内で国際シンポジウム「昆虫の新たな用途展開の可能性を探るー持続的食料生産に貢献しつつある昆虫ー」を共催。研究者、民間企業、大学関係者など約170人が参加した。
国際連合食糧農業機関(FAO)が食と飼料の昆虫利用を促す報告書(Edible Insects:Future Prospects for Food and Feed Security)を2013年に公表した。海外では価格高騰した魚粉の代替に未出荷食材で飼育した昆虫を使う動きが活発になり、食材としての利用の動きも見られるが、日本ではその動きが弱い。このため、食料と飼料の両面で昆虫利用の先進的な事例紹介と、海外の専門家も交えて講演を行った。
農研機構の井邊(いんべ)時雄理事長が開会のあいさつを行った。挨拶では、食材や飼料の多量な輸入は干ばつなどの異常気象や為替の変動などが価格に影響し、生産者の経営に関ってくることを説明。2013年のFAO報告書発表後、各国で様々な取り組みがあり、「このシンポジウムは昆虫をさらに広く大規模に活用していくための勉強会」だとした。
最初に2013年発表のFAO報告書に基づく国際的な動向をFAO駐日連絡事務所の渡邉和眞氏が講演。西洋社会では昆虫食がタブーとされた背景があり、あまり研究対象にされなかったが、キリスト教やユダヤ教、イスラム教などでは、一部の昆虫を除き食することを禁じていないと述べた。一方、昆虫を食べている人は世界中で20億人ほどいると言われ、食用可能な昆虫は1900種以上にのぼると話した。
昆虫を食料と飼料に活用する利点は、(1)飼料変換効率が高く、肉変換率も良い(家畜牛肉1キロに対し必要な飼料は8キロ、昆虫肉1キロに対しては必要飼料2キロ)、(2)生活廃棄物で飼育できる、(3)水が少なくていい、(4)家畜ほど土地が必要ないことがあげられた。さらに栄養価は昆虫の種類でバラエティにとみ、脂肪酸なども含むため栄養不良の子どもへの栄養補助食品としての活用も期待できる。ただし昆虫は無脊椎動物で、甲殻類アレルギーのようなアレルギーを引き起こす可能性があるため、注意が必要だと述べた。
このほかにも養殖は、適した種をみつけること、生産システムを構築すること、トレーニングが必要なことなどがあげられた。また有機廃棄物の利用には安全性の評価が必要で、さらに衛生上の影響も検討せねばならないとした。
昆虫が一般的な食料、飼料と認知されていないため、今後は安全の基準を設ける必要があり、さらには生産現場の環境影響評価を法的に整備していく必要があると指摘した。
立教大学の野中健一教授は「文化資源としての昆虫食」を講演。非常用として昆虫食があるのではなく、酸味などの味をもたらすものとして捉えられている文化について話した。さらに東南アジアでは昆虫が集落の収入源としての役割を担っていることを示した。
日本では食用文化が継承されているハチノコやカイコ、カミキリムシの幼虫などについて言及。採種の仕方や捕獲、調理が地域によって文化的な違いがあることを話した。
このほか、ワーヘニンゲン家畜研究所のTeun VELDLAMP氏が「家畜のための昆虫飼料」について、そしてアメリカミズアブ生産企業のエンバイロフライト社のGlen COURTRIGHT会長が「動物・養魚飼料成分としてのアメリカミズアブ幼虫の飼育と製造」について講演した。COURTRIGHT会長は、同社の製品がペットフードや動物園で使う餌として使われていることを話し、また幼虫飼育の場面を映像で紹介した。
講演者の一人、国際農林水産業研究センターの中村達氏は、今後の日本での昆虫活用について、「消費者と企業の考え方次第だが、活用の可能性はある」と話した。ただし「日本はこの分野での研究レベルが遅れている」と指摘した。
(写真)あいさつする井邊理事長、いなごやざざむしの田舎炊き
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