温暖化によるコムギ新品種の有効性を分析 農研機構、鳥取大学と共同研究2021年1月18日
農研機構は1月14日、鳥取大学乾燥地研究センター、スーダン農業研究機構との共同研究で、地球温暖化に対応するコムギ高温耐性品種の開発速度を分析。世界で最も暑いコムギ栽培地域・スーダンでの高温耐性品種の収量を維持していくには、通年で最大2.7%増加する必要があることを示した。世界のコムギ育種研究機関が高温耐性品種の開発目標設定に役立てる。
アフリカ北東部スーダンのコムギ栽培環境は世界で最も高温とされ、コムギ生育期間中の日平均気温は17℃~35℃程度で、36℃を上回ることもある。栽培されるコムギは高温に耐性がある品種だが、現地のほ場観測データからは、生育期間の平均気温が高い年に収量が減少する傾向にある。このため、温暖化の進行とともにスーダンのコムギ収量の減少が懸念されている。
そこで、スーダン農業研究機構の栽培試験データに基づき、農研機構では現地で広く栽培されている高温耐性品種・デベイラとイマムの生育・収量をコンピュータ上でシミュレーションした。気候シナリオは2050年に工業化以前と比べ、最も気温上昇が小さい場合には+1.5℃、最も気温上昇が大きい場合には+4.2℃を想定。高温が特徴の栽培環境区分であるスーダン中部のワドメダニ、東部のニューハルファ、北部のドンゴラ地域の3地域で、予測した今世紀半ばの気温と2品種の収量の関係について明らかにした。
その結果、生育期間の平均気温が低くなるように播種日を調節した場合、スーダン中部のワドメダニでは、+4.2℃シナリオ下でも、イマムはデベイラよりも収量が22%(0.33t/ha)高く、より新しい高温耐性品種の有効性が示唆された。一方、イマムを想定した場合でも、+4.2℃シナリオでは、生育期間の平均気温が1℃上昇すると収量が現在よりも51.1%減少した。現在の収量と同じ水準を維持するためには、イマムに比べ収量が高い高温耐性品種が毎年、開発される必要があるとしている。
スーダンではコムギの消費が年々増加し、2000年に110万tだったコムギ消費量は2017年に300万tに拡大している。こうした消費量の急増は、ソルガムやミレットなどスーダンで生産されている他の穀物ではみられていない。2050年には人口が8000万人(2017年は3300万人)に達する見込みで、人口増加によるコムギ需要は現在の約2倍の570万tに増加する見通しだ。スーダンのコムギ自給率は現在約20%で、国内のコムギ需要の増加と温暖化に対応するためにはより高温耐性の高い、新たなコムギ品種開発が有望な方策となる。
鳥取大学乾燥地研究センターでは、スーダン農業研究機構と共同でコムギ近縁野生種由来の遺伝子で遺伝的多様性を増強させた系統を利用した高温耐性コムギの育種事業を開始している。現地ほ場で新しい高温耐性品種の温暖化への有効性を調査していく。
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