栽培技術:活力ある農業へ 経済界と農業界の連携強化①
種子から出荷までバリューチェーン構築 シンジェンタ2015年7月31日
・プロジェクトで20件が進行中
・欧州の主品種日本で栽培へ
・貯蔵性、機械収穫の適正も
・国内産地の端境期対策に
・互いの強みを活かし着実に
加工用野菜を開発
◆プロジェクトで20件が進行中
活力ある農業と地域づくりをめざした取組みの一環として、JAグループは経済界との連携強化を進めており、昨年5月13日に、経団連とJAグループ首脳による共同会見を開催した。この席上で「活力ある農業・地域づくり連携強化プロジェクト」を発表し、農業界と経済界のマッチングを促し提携プロジェクト創出をめざす方針を決めた。
その後、農業界はJA全農から課題等が提起され、経済界側は17社から技術・資材などのプレゼンなどが行われ、現在、全農・県本部等と企業間で個別協議により、提携プロジェクト創出に向けた取り組みが20件進められている。そして、これらの取り組みについては「具体的な成果につなげるための実証試験や農業者ヒヤリングなど、中長期的な検討を要するものもあることから、当面、これらの個別協議を継続して行っていく」ことにしている。
そして「当ワーキンググループを通して、経済界と農業界で情報の共有化が促進され、経済界の技術・ノウハウを活かした新たな事業モデルの導入やプロジェクト化の検討がすすむなど、非常に意義のある取り組みとなった」と評価されている。
なお、個別協議テーマの概要は、表のような内容となっている。
このなかから今回取り上げるのは「国産農畜産物の物流・加工価値向上」をテーマに、シンジェンタジャパン社(以下、シンジェンタ)とJA全農が取り組んでいる「物流・加工適性の高い野菜品種による作業効率の改善」だ。
◆欧州の主品種日本で栽培へ
加工・業務用野菜の需要は「食の外部化」などもあって年々高まってきている。JA全農でも、加工・業務用需要に応える野菜品種の開発に取り組んできている。加工・業務用に適したキャベツ、レタス、ブロッコリーなどを欲しいという声は以前からあったが、JA全農青果センター(株)が、平塚の営農・技術センターに隣接して神奈川センターを開設したことで、より強く実需者と連携できるようになってきている。
全農とシンジェンタとは、2009年ころから協力関係にあり、シンジェンタが開発し全農が販売することでおなじみになっているミニトマト「アンジェレ」のように成果を上げているものもある。
シンジェンタには種子部門があるが、種子の開発は日本では行っていない。今回のプロジェクトで検討されているキャベツについてみると、ヨーロッパでメジャーな品種として栽培されているが、日本では種子の販売も栽培もされていない品種が検討されている。
◆貯蔵性、機械収穫の適正も
ヨーロッパではキャベツは生食よりも、加熱したり、酢漬けにして長期間食べるのが主流だといえる。晩夏に播種し、年内に収穫されたキャベツを貯蔵して春先まで食べ続けるので、加工性と同時に「貯蔵性」が求められる。さらに機械による収穫が主体だから、それに応えられるものということになる。
例えば「NOVOTON」がそうだ。この品種は、株間60cmほどで栽培され、1株が10~12kg、10アール4000球収穫できるという多収性品種だ。
あるいはNOVOTONほど大玉ではないが、1球4~5kgで、刻みキャベツなど生食しても味がよい「ZENON」という品種もある。貯蔵性はNOVOTONに比べるとやや劣るが、球形で機械収穫適性がよく、実が締まっているので加工歩留まりがよいというのが特徴だ。
(写真)多収性品種キャベツの「NOVOTON」
◆国内産地の端境期対策に
こうした品種を導入する狙いは、国内キャベツの端境期(3~4月)の需要に応えることにある。具体的には、晩夏に播種して年内に収穫して貯蔵しておき3月ころから出荷(使用)しようということだ。
レタスについても、国内産地の端境期に最近は台湾からの輸入が増える傾向にある。国産レタスを守るためにも、端境期における国内産地の確立は急がなければならないといえる。
ヨーロッパでもレタスは生食されるが、日本のような結球レタスではなく、半結球、非結球レタスが主流だ。ヨーロッパの品種は、大きく栽培しても非結球なので葉の大小もなく硬くならないので、加工場でカットレタスにするのであれば、非結球の方が価値が高いといえる。
いま全農とシンジェンタでは、非結球だと土やホコリがレタス内に入りやすいので、水耕栽培で年8~11作することを検討しているという。
また、ブロッコリーについては、「ステックブロッコリー」(収穫・加工性の良いタイプ)について検討している。
いずれもヨーロッパでは生産されているが、日本ではまだ栽培されておらず、しかも国内の実需者の要望に応えられる品種について、シンジェンタが種子とヨーロッパでの栽培方法を提供し、全農と実証ほ場でテスト栽培し、適性があると判断すれば、JA全農青果センター㈱の取引先の青果担当バイヤーなどとの「野菜品種展示・商談会」などで、バイヤーの評価を聞いて、商品化への道を探っていくことになる。
試食段階でバイヤーの評価が高いものを実際に野菜のカット機械にきちんと対応できるか検討していくことも重要だといえる。
◆互いの強みを活かし着実に
ヨーロッパなどで種子開発をして、実績をもつシンジェンタと、日本国内におけるエンドユーザーと強いつながりをもち、なおかつ肥料・農薬から農業機械をはじめとする生産資材を取り扱う全農が、協働で「種子から栽培・出荷までのバリューチェーンを組み立てることが、このプロジェクトの目的」であり、そのために「お互いの強みを活かした」取り組みをしていくことがなにより大切だ。
こうした取り組みを進めていくことで、プロダクトアウトからマーケットインへの転換を図っていくことが全農の基本的な姿勢だといえる。そのために一歩一歩、着実にバリューチェーン構築に向けた取り組みが進んでいる。
経済界と農業界連携強化ワーキンググループの個別協議テーマの概要
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