譲歩は連鎖し、連鎖は拡大生産される?2016年12月22日
◆譲歩の連鎖、次は日欧EPA
安倍首相の政治は、威勢のよい掛け声と、中味はともかく、やったという実績を残すこととしか思えない。
TPPを批准したその勢いで日欧EPAの年内合意を目指したが、TPP以上に秘密のベ-ルに包まれている。さすがに自民党の農林族も待ったを掛けた。そのせいではないだろうが、とりあえずは年明けに持ち越された。しかし急ぐ理由は、EU側は来年目白押しの各国の選挙前に合意したい、つまり、排外主義・ポピュリズムを含め反グロ-バル化の潮目を回避したい、という点にある。安倍首相の最大の理由は、TPPの漂流の流れに棹さしたい、というところだ。
つまり、いずれも協定本来の理由とは異なる事情が優先されている。
安倍政権は、自民党もこれ以上の譲歩は無い、として日豪EPAでコメの関税を維持し、一方で牛肉関税を38.5%から19.5%(冷凍肉、18年目に)、23.5%(冷蔵肉、15年目)まで下げた。しかし舌の根も乾かないうちに、TPPでコメのSBS枠7万8400トンとMA米に中粒種枠6万トンの新設、牛肉関税16年目に9%と更に譲歩をし、今、日欧EPAでもTPP以上の譲歩に踏み込んでいる、という。次はTPP参加国からの追加要求は必至だ。
これでは譲歩の連鎖としか言いようがない。
◆TPPの影響試算はTPPに止まらない
自由貿易協定の交渉をする度に多くの政府はその影響試算を発表する。TPPで日本政府は、生産性向上、非関税障壁の影響などがTPPによる成長経路に移管することの効果としてGDP13.6兆円増、対策効果を織り込んだ農林水産物の生産額の減少を1300~2100億円とした。
私自身は、このような試算は論理の弄びに過ぎないことが多く、明確な姿を取るのは関税引き下げの影響を受ける農林水産物だけと考える立場だ。その場合でも、実際には他の要因が複雑に絡み、結局自由貿易協定の影響で〇〇円と特定することは難しい。
しかし、輸入価格の低下が生産額の減少をもたらすことだけは確実で、過去の自由化の影響にハッキリと現れている。
問題は、単独の自由貿易協定の影響だけを云々しても無意味だということだ。
TPPの試算では日豪EPAの影響は含まれていない。そして当然日欧EPAも含まれていない。しかし安倍首相は、「TPPは世界が目指すべきル-ル」(12月9日国会答弁)として今後の自由貿易の基準はTPPだとしている。ということは、ただでさえ過小評価とされる、TPPで織り込んだ農業への影響は、日欧EPA、RCEP、FTAAPと自由貿易協定が増えるごとに深刻さを増していくということだ。単純なことが認識されないまま前のめりになる姿勢は実に寂しい限りだ。
◆TPP以上の譲歩が想定される日欧EPA
そして日欧EPAでは年内大筋合意を目指してTPP以上の譲歩が懸念されている。新聞情報でしかないが、多くの農産品でTPP並み、豚肉チ-ズでTPP以上を要求(以上12月15日付け日本農業新聞)、豚肉で進展、チーズ並行線(17日付け日経)と報道されている。
個人的に問題にしたいのは、あまり目立たない他の分野だ。例えば12月14日付の日経報道では「地方大学、公立病院の入札への参加をし易くする」と報道されている。また交渉の初期段階でEUはJRの調達開放を強く迫り、かなり進展したとの報道がされていた。公共調達だ。
しかし、TPPの15章「政府調達」の附属書15-A「日本国の表」を見ても、国立大学法人や国立病院機構などは政府調達の規制の対象となっているが、公立大学法人や公立病院機構などは対象とされていない。政府調達についても日欧EPAはTPP以上の開放を約束している可能性が懸念される。
また、ISDSについて、EUは昨年5月に「常設のISDS法廷」の提案を公表し、今回も日本に提案をしている。全く問題を解決するものではないが、従来よりは、ましな内容だ。しかし日本はあくまで従来の仕組みに拘っている(EU情報)。
譲歩の連鎖は限りなく拡大再生産される。
(前々回 TPPの附属文書から見える"異なる風景")
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