(041)ブロイラー生産のバージョン・アップ2017年7月28日
昭和35(1960)年、わが国の鶏肉は全量が国内生産で賄われていたが、その数量は10.3万トンであった。国内の肉類全体の生産量が57.6万トンであり、これに4.1万トンの輸入を加えた国内消費仕向量が61.7万トン、鶏肉が肉類全体に占める割合はわずか17%の時代である。筆者が小学校に入学した昭和42(1967)年当時ですら、食肉に占める鶏肉の割合はまだ22%であり、鶏モモ肉1本は子供にはやや贅沢な御馳走であったことを覚えている。
国内鶏肉生産量が10倍、つまり100万トンに達するには、長い時間を必要とした。昭和53(1978)年にようやく108.5万トンの大台に達している。この年、肉類全体の国内消費仕向量は352.5万トン、鶏肉の割合は31%に上昇した。
それからさらに31年の時間を経た平成21(2009)年、国内の鶏肉生産量は201.7万トンと当時から倍増し、割合は36%になった。直近の数字を見ると、平成27年(2015)年には国内仕向量229.8万トン(うち国内生産量151.7万トン、輸入量80.9万トンなど)と、肉類の国内仕向量603.5万トンの38%を占めている。
簡単に言えば、現在の日本人向けに供給される食肉は年間約600万トンであり、そのうち4割弱の約230万トンが鶏肉ということだ。因みに豚肉は約250万トン、牛肉は約119万トンである。
話を戻すと、鶏肉1人当たりの年間供給量は、昭和35(1960)年には0.8kgであったが、平成27(2015)年には12.6kgと、約16倍に増加したということになる。
* * *
食肉生産、その中でも一般にブロイラーと呼ばれている鶏肉の生産は、農業の中でも工業的色彩が強い分野である。ブロイラーには、産卵、孵化、ひな、育成の前期・後期と各段階はあるが平均すれば50~55日程度で一気に2.7~2.8kg程度まで成長する。採卵鶏が約550日という一生を辿るのに対し、ブロイラーの寿命は2か月もない。安全性はもちろんだが、生産性と効率性を徹底的に追及し年間5回転、これが大手の平均サイクルだ。
平成28年2月1日時点で国内には、2360戸のブロイラー飼養農家がいる。わが国の年間出荷羽数は約6.7億羽、規模で見れば30万羽以上を飼養している605戸が全体の63%を占めている。50万羽以上で見れば266戸が全体の44%である。地域別には、岩手、宮崎、鹿児島の3県で全出荷羽数の56%を占めており、南北に集中している。
ブロイラー生産の興味深い点は、恐らくこれらの大規模農家のほとんどが地域のインテグレーターとの契約農家であり、ひなから施設、飼料、その他を含めた委託生産、あるいは請負生産の形式を採用していることである。農家は受け入れたひなを育て、出荷することに集中する訳だ。完全な役割分担、モジュール化が成立している。
* * *
さて、食の安全と鶏肉と言えば、高病原性鶏インフルエンザ(HPAI)のことがすぐに頭に浮かぶ。ブロイラー生産においても安全性の確保は至上命題である。さらに、近年では動物愛護(AW:Animal Welfare)の観点からもブロイラー生産は注目されている。
社会システムというのは不思議なもので、何事も行き過ぎると反動が来るし、消費者の意識も変わる。促成栽培のようなブロイラー生産は確かに我々に常に美味しい鶏肉を過不足無く安定供給してくれたが、同時に「厳しい」消費者には、やや「早すぎる」あるいは人工的過ぎるという感度が芽生え始めているようだ。欧米諸国でAWに対する関心が高まった背景には、食の安全に関する様々な事故や経験を乗り越えて、やはり産業としての農業の中でも畜産の「工業化」の規模と速度に対する懸念が少しずつ消費者に芽生えてきたのではないかと考えられる。
その結果、鶏肉も国によっては国内消費向けには少し時間をかけて育て、輸出向けと区別するような動きが出始めているようだ。これはこれで問題ではあろうが、そこはひとまず脇へ置く。わが国でも、全国各地の銘柄鶏が注目を浴びているが、これを単純な地域ブランドと見るだけでは不十分である。恐らく、国民の深層心理にも似たような動きがあると思う。それが、あえて手間と時間をかける伝統的な生育方法を評価する動きとして表面化したのであろう。国民の食肉の4割を占める鶏肉生産には社会システムとして更なるバージョン・アップが求められるかもしれない。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(173)食料・農業・農村基本計画(15)目標等の設定の考え方2025年12月20日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(90)クロロニトリル【防除学習帖】第329回2025年12月20日 -
農薬の正しい使い方(63)除草剤の生理的選択性【今さら聞けない営農情報】第329回2025年12月20日 -
スーパーの米価 前週から10円上がり5kg4331円に 2週ぶりに価格上昇2025年12月19日 -
ナガエツルノゲイトウ防除、ドローンで鳥獣害対策 2025年農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2025年12月19日 -
ぶどう新品種「サニーハート」、海水から肥料原料を確保 2025年農業技術10大ニュース(トピック6~10) 農水省2025年12月19日 -
埼玉県幸手市とJA埼玉みずほ、JA全農が地域農業振興で協定締結2025年12月19日 -
国内最大級の園芸施設を設置 埼玉・幸手市で新規就農研修 全農2025年12月19日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日 -
【農協時論】感性豊かに―知識プラス知恵 農的生活復権を 大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏2025年12月19日 -
(466)なぜ多くのローカル・フードはローカリティ止まりなのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月19日 -
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 19日から開催 JA全農2025年12月19日 -
α世代の半数以上が農業を体験 農業は「社会の役に立つ」 JA共済連が調査結果公表2025年12月19日 -
「農・食の魅力を伝える」JAインスタコンテスト グランプリは、JAなごやとJA帯広大正2025年12月19日 -
農薬出荷数量は0.6%増、農薬出荷金額は5.5%増 2025年農薬年度出荷実績 クロップライフジャパン2025年12月19日 -
国内最多収品種「北陸193号」の収量性をさらに高めた次世代イネ系統を開発 国際農研2025年12月19日 -
酪農副産物の新たな可能性を探る「蒜山地域酪農拠点再構築コンソーシアム」設立2025年12月19日 -
有機農業セミナー第3弾「いま注目の菌根菌とその仲間たち」開催 農文協2025年12月19日 -
東京の多彩な食の魅力発信 東京都公式サイト「GO TOKYO Gourmet」公開2025年12月19日 -
岩手県滝沢市に「マルチハイブリッドシステム」世界で初めて導入 やまびこ2025年12月19日


































