TPP参加へ大きく踏み出した安倍首相2013年2月25日
先週23日の日米首脳会議のあと、両国政府は共同声明を発表して、「TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税撤廃をあらかじめ約束するよう求められるものではないことを確認する。」とした(資料は本文下の注)。
昨年暮れの総選挙で、自民党は「『「聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します」と公約したが、安倍晋三首相は、こんどの声明で、「聖域なき関税撤廃が前提ではないことが明確になりました」と記者会見でいった。
つまり、TPP交渉に参加しても公約違反にならない、というわけである。こんご実際に交渉参加するかどいうかは、与党に説明し、政府の専権事項として一任してもらい早急に判断する、とした。
TPP問題は、いよいよ大きな山場を迎えた。
共同声明でいっていることは、それだけではない。
冒頭で、「全ての物品が交渉の対象になること」を、あらためて声明している。つまり、コメなどの重要品目を、あらかじめ聖域にする、という言質をとったわけではない。それこそが交渉だ、というのである。
また、冒頭でTPPは「包括的で高い水準の協定」だ、と念をおしている。つまり、関税撤廃だけでなく、医療や保険や労働移動やISDなどなど、国内制度を大幅に変更する協定だ、というわけである。
◇
これでTPPへの懸念が取り除かれたと見ることは、とうてい出来ない。
両国政府は、したがって日本政府も、この声明で、全ての農産物を含む全ての物品が関税撤廃の交渉の対象にすることを、冒頭で認めた。このような重大な合意をした。
だから、コメなどの重要農産物も関税を撤廃する品目として取り上げられ、交渉の対象になる。実際にどうなるかは交渉次第だ、というのである。
交渉の結果、どうなるか。どれほどの農産物が関税を撤廃しなくてもいいことになるか。
◇
参考になるのは、昨年の韓米FTAである。この協定で、韓国はコメだけが関税撤廃から免れ、コメ以外の農産物は全て関税を撤廃することになった。
また、共同声明は冒頭で、TPPは「高い水準」の協定だ、と念をおしている。これは、韓米FTAなど、これまでのFTAより「高い水準」という意味だろう。だから、TPPで関税撤廃から免れると期待できるのは、せいぜいコメだけである。それでも韓米FTAと「同じ水準」でしかない、といわれる。
それよりも「高い水準」というなら、コメさえも関税を撤廃することになる。若干の猶予機関は認められるかもしれないが、いずれは関税撤廃になる。それでいいのか、が問われている。事態は深刻なのだ。
◇
自民党は、昨年暮れの総選挙でTPP参加の条件を6つ掲げ、安易な妥協はしない、と公約した。首脳会議では、このうちの1つの条件である関税撤廃の問題だけを取り上げたが、他の5つの条件、つまり、国民皆保険や食品の安全問題やISDなどは言及しただけで、オバマ大統領がどう応じたかについては何もいっていない。
それでもTPPに参加するのだろうか。ここに、首相の前のめりの姿勢がみえる。
◇
また、ここに、いまの反対運動の限界がみえる。
しかし、政府与党の自民党のなかでも、62%の国会議員が反対派である。野党の中にも反対派が多い。
今後の緊急な課題は、反対派の結集である。だが、その先頭に立つべき野党が四分五裂の状態にある。それに加えて、労組や生協の、ことに中央機関が反対派になっていない。このことは、反対運動が、さらに大きく広がる余地を残している、ということである。
これから反TPP運動の長くて険しい道のりが続く。当面する最重要課題は、反対派がどう1つに結集するかだろう。その中核を、どう作るかだろう。小異にこだわることは、もう許されない。
(※ TPPについての日米共同声明についてはコチラから)
(前回 改訂版「TPP参加の即時撤回を求める会」の会員と未会員)
(前々回 世界の食糧問題にひそむ経済格差)
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