TPP、日本政府の本音と誤り2014年2月24日
政府は、TPP交渉の場で、何を本音にし、何をよそおい、何を誤っているのか。
TPP交渉で、アメリカは日本への米の輸出に固執しているというが、そうだろうか。
アメリカでは、米の生産額は農産物全体の生産額の0.7%でしかない。0.7%のものに固執し、「同盟関係」をそこなうほどの激しい交渉をして、日本を屈服しようとするだろうか。ちなみに、アメリカは同盟関係にある韓国とのFTAでは、米を聖域にした。韓国は守り抜いた。
0.7%であることを知らないで交渉しているとしたら、全く稚拙な交渉だ、というしかない。その結果、日本は針路を誤る。
知っているとしたら、何を本音にして交渉しているか。
政府の本音は、関税をゼロにすることで、農産物を国際競争にさらして、いわゆる農政改革のテコにしよう、というのだろう。
そんなことは、出来はしない。食糧自給率を下げ、食糧安保を危うくさせるだけだ。
政府のこのような、日本の農業についての無知、世界の農業についての無知は、日本の針路を誤るだろう。
◇
念のため、アメリカ農務省の最新の資料をみよう。
2012年の農産物の生産額は合計で3951億ドルだった。そのうち、米の生産額は28億ドルで0.7%だった。きわめて小さな部門にすぎない。
小さな部門とはいえ、輸出しやすくして生産を振興する政策はアメリカの国益になる。だから、アメリカ政府はTPPで、国益にしたがって、誠実に日本に対して関税の撤廃を迫っている。日本の政府は、うろたえているようにみえる。
◇
しかし、アメリカ政府が、腰を据えて本気で米の関税撤廃を激しく要求しているとは思えない。
日本政府も、本気でうろたえているとは思えない。そのフリをしているのだろう。TPPでアメリカを悪者に仕立て上げて、米の関税を撤廃したい、と考えているのだろう。撤廃でなくても関税を引き下げたい、と考えているのだろう。両国が気脈を通じて、こうした茶番劇を演じている。
◇
政府の農政改革は、競争力の強化を目玉にしている。ここでいう競争力は、いうまでもなく国際競争力である。
国際競争力を強めるためには、政治的な保護を弱めて、つまり、TPPで関税をゼロにすることを目ざして引き下げ、国際市場の力をかりよう、というのである。
ここには、関税をゼロにしても、やがてアメリカの米と競争できる、という誤った考えがある。日本農業とアメリカ農業との間には、そのおかれている条件に隔絶した違いがあることを、政府は乱暴に無視している。
◇
また、政府の経済成長戦略は、TPP加盟を前提条件にしているようだ。そうして農業を重要な成長産業にする、という。
そのために、農業に農外の資本を入れる。それを阻害する規制を撤廃する、という。農協や農業委員会が阻害しているし、農業生産法人の要件の規制が強すぎる、と考えている。
株式会社が農業を成長産業にする、という考えがその基本にある。
◇
この考えは、今年が国連で決めた国際家族農業年であることを忘れている。
FAOのジョセ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長は国連の記念式典で「家族農業以外に持続可能な食料生産のパラダイムに近い存在はない」と演説している。
この考えを否定するのが、日本政府の成長戦略であり、農政改革であり、家族農業を否定して株式会社に農業をゆだねる考えである。世界中から嘲笑を浴び、顰蹙をかう考えである。
(前回 地方衰退、首都圏隆盛でいいのか)
(前々回 在庫圧力で米価続落)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
【石破首相退陣に思う】戦後80年の歴史認識 最後に示せ 社民党党首 福島みずほ参議院議員2025年9月16日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(6)2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
「JA共済アプリ」が国際的デザイン賞「Red Dot Design Award2025」受賞 国内の共済団体・保険会社として初 JA共済連2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
公式キャラ「トゥンクトゥンク」が大阪万博「ミャクミャク」と初コラボ商品 国際園芸博覧会協会2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日