【コラム・ここがカンジん】教育論なき自己改革2015年8月4日
今回の農協改革・農協法改正議論での際立った特徴は、協同組合論の不毛である。それは農水省だけではなく、JA陣、および研究者などその応援団にも言えることだ。例えば教育無視について、いち早く警鐘乱打されたのは、東京農工大名誉教授の梶井功先生であった。
◆不毛の協同組合論
先生は、平成13年の農協法改正で、第10条1項の「農協が行う事業」から教育の文言が消されたことをいち早く指摘された。この改正に、大方の協同組合研究者はさほどの反応を示さなかったし、全中をはじめとするJA関係者は、問題の所在さえ分からないという有様であった。
今回のJA改革に関して、全中がつくった「自己改革方策」では、全中の機能を、(1)経営相談・監査、(2)代表、(3)総合調整の3つの機能に集約し、教育は除かれた。ここに協同組合論不毛の極地があり、全中は、梶井先生の警告を教訓としないばかりか、自ら教育機能を放棄した。
こうした背景には、教育をワン・オブ・ゼム(多くの中の一つの)事業としてしかみておらず、この期に及んで、あれもこれも、主要機能に入れる訳にはいかないという、教育軽視の考えがある。言うまでもなく、教育は協同組合にとって特別の意味を持っており、教育は協同組合運動を進める手段ばかりでなく、その目的でもある。
全中は、自らの機能を上記の3つに絞ったが、そのことを通じて、自らJA運動の司令塔という自覚に欠け、ひたすら自らの組織の生き残りをはかったと言われても仕方がないだろう。全中は、なぜ、教育機能の発揮というバックボーンなくして、代表・総合調整機能を発揮できないという、初歩的なことに気が付かなかったのか。
農水省は、全中がつくった「自己改革方策」の教育軽視という重大なミスを見逃さなかった。農水省は「自己改革方策」のすべてを否定したが、教育機能無視だけはしっかり採用し、早速、この3つの機能を、都道府県中央会の主要機能として農協法上に規定した。
協同組合を否定するには、法律上、教育機能を抹殺すことが最も効果的なことを、当の農水省こそが、しっかりと自覚していたのである。かくして、農水省は、10年以上をかけて農協法から教育という文言をすべて消し去ったのである。
関連していえば、「自己改革方策」で全中の経営指導を相談機能に矮小化したことも不可解だ。協同組合がこの世に存在するのは、「協同組合原則」という組織の運営方法を持っているからであり、組織の運営方法つまり経営指導は、JAにとって、その生命線と言えるものだ。経営指導機能は、決して経営相談に矮小化されてはならず、教育と同様、中央会は経営指導無くして、代表・総合機能を果たすことはできない。経営指導は教育に生かされ、教育によって適切な経営指導が行われる。
全中は一般社団法人に、県中は連合会となるが、いずれも農協法の附則の位置づけであり、今後、中央会は指導機能発揮について、農水省の後ろ盾を期待することはできない。中央会の味方はJAであり、中央会はJAとよく相談・協議し、農政、広報事業とともに経営指導、教育事業を、せめて中央会の付帯事業と位置づけ、自主・自立の精神で、全中・県中一体となった指導体制を構築していくことが重要だ。
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