マレーシアの米価は1㎏当たり52円2015年12月7日
マレーシアでの米の価格は、小売価格で、10kg当たり18リンギットである。現地にいる友人のMさんが、そのように知らせてくれた。換算すると1㎏当たり52円である。もちろん玄米ではなく、精米である。
日本での米の小売価格は、政府の統計によれば、1㎏当たり392円である。マレーシアの7.5倍になる。
もしも、将来、日本がTPPに加盟し、TPPの理念である「例外なき関税撤廃」にしたがって、米の関税を撤廃すれば、小売店の店頭には、52円の輸入米が並ぶだろう。392円の国産米は、店頭から姿を消すだろう。日本の米は壊滅するのである。それは、決して国益にならない。
このような理念をもつTPPに加盟するか否かが、いま問われている。来年早々には、国会で議論されることになるだろう。TPP協定の国会批准は、断固として拒否しなければならない。
マレーシアは、TPPに当初から加盟していて、米の輸出入は自由化している。だが、米の自給率は、58.8%で比較的高い。つまり、米の国際競争力は強い。そして、日本と同じように農業を重視しない国だ。
日本の米は、現在、高率関税がかけられていて、通常の輸入量はほとんどゼロだ。だが、MA米を輸入しているので、自給率は91.0%である。
しかし、もしも日本がTPP協定を国会で批准し、TPPに加盟すれば、やがてTPPの理念にしたがって、関税撤廃を迫られることになる。もしも、関税を撤廃すれば、52円の輸入米と392円の国産米との競争になる。国産米に勝ち目がないのは明らかである。日本の米の自給率は、ほとんどゼロになるだろう。日本の米は壊滅するのである。
◇
いくつかの反論があるだろう。予想される主な反論に答えよう。
52円の輸入米と、392円の国産米とでは食味が違う、だから比較にならない、という反論がある。
たしかに、今は食味は違う。だが、これは目先きのことである。農業者は、目先だけを見てTPPを評価してはいない。数十年先、百年先を見ている。
もしも、日本がTPP協定を国会で批准し、TPPに加盟して、やがて米の関税を撤廃すれば、マレーシアなどは、国内では輸入米を食べ、国内産の米は、日本人の食味に合う米を作って、その米を日本へ輸出するだろう。日本人の食味に合う米だからといって、コストが高くなるわけではない。種子を代えればいいだけである。栽培法は10年ほどで習得できるだろう。
つまり、同じ食味の52円の輸入米と392円の国産米が、日本市場で競争することになる。国産米に勝ち目はない。それは、大規模化などで逆転できる程度の違いではない。
それは、農業者が怠けているからではない。歴史と風土が違うからである。歴史と風土は変えられない。だから、そうした国情を無視した米の輸入自由化は、もともと間違いなのである。無責任な空論である。罪は重い。
◇
つぎの反論は、こんどのTPP大筋合意で、米の高率関税は維持されるではないか、だから取り越し苦労だ、という反論である。
しかし、高率関税の維持はTPP発効後の15年間に過ぎない。農業者は、15年の間なんとか農業をしていられればいい、とは考えていない。短くても数十年、いや、百年後の日本農業を考えている。
ふり返ると、20年前のウルグアイ・ラウンドのとき、その理念は「例外なき関税化」だった。そして、全ての農産物を関税化し、農産物の輸入政策の手段を、関税を除いて全て放棄させた。外堀を埋め、退路を断って、その後の自由化攻勢を関税撤廃の一点に集中したのである。
TPPは、これを受けつぎ、「例外なき関税撤廃」を理念にした。関税さえも放棄させ、農産物の輸入政策の手段を、全て放棄させようとしている。
こうした流れをみるとき、もしも、TPP協定を国会が批准し、TPPに加盟すれば、米の輸入禁止的な高率関税を維持する、という当面の例外扱いも、やがて出来なくなるだろう。やがて米の関税もゼロになることを、覚悟することになる。そうして、日本の米の壊滅を覚悟することになる。それは、誰ものぞんでいない。
◇
つぎの反論は、政府は市場価格と生産費との差額を補償する、と言っているではないか、というものである。だから心配しなくていい、再生産は続けられる、国会決議は守れる、というものである。TPP対策の目玉だ、ともいう。
この反論は、TPP協定を国会で批准し、TPPに加盟すれば、米の市場価格は、やがて52円に暴落することを想定していない。暴落したら、どうなるか。
生産費を保証するというが、日本の米の生産費は、政府の統計でみると、精米換算で1㎏当たり285円である。だから、補償単価は市場価格の52円との差額の233円(285円―52円)になる。
だから、米作農業者の報酬は、全体の18%である52円を、米代金として市場から受け取り、82%を補償金として政府から受け取ることになる。
この計算には、小売りまでの流通経費は含まない。だから、流通経費を加えれば、それ以上になるが、それは譲って無視しよう。
こうした異常ともいえる状況が受け入れられるだろうか。農業者は、自分の作った米を、消費者が市場でどう評価するかではなく、政府の顔色を見ながら、米を作ることになる。
こうした異常な状況は受け入れられないとなれば、この補償制度は長つづきしない。政府は補償金を値切るだろう。生産費は保証できなくなり、再生産はできなくなる。日本の米は、やがて壊滅へ向かっていくのである。
◇
以上で述べてきたように、TPP協定を国会で批准し、TPPに加盟すれば、日本の米は、壊滅へ向かって突き進むことになる。
日本は、この道を選択するのか。それとも、国会がTPPの批准を拒否して、日本の米に、希望に満ちた明るい未来を切り開くのか。
TPPは、その境目にある。
(2015.12.07)
(前回 TPPは消費者にとってソンだ)
(前々回 幻想のTPP農業対策)
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