参院選直前の異例な農政論議2016年2月15日
自民党は、衆議院にTPPを審議する特別委員会を作り、その委員長に西川公也氏を当てるようだ。3月中旬に設置するという。マスコミが、そのように伝えている。
これは異例のことである。
今国会は、TPP国会と言われている。TPPを国会で充分に審議するのは当然のことである。
この時期は、7月の参院選の直前にあたる。国民は、国会審議での各政党の主張を充分聞いた上て投票したい、と考えている。それも当然である。
しかし、これまで老獪な自民党政権は、選挙直前になると、農政は論点をボカし、議論を避けてきた。選挙に不利だからである。だが、今度は異例である。何故だろうか。
自民党政権が、選挙直前に農政の論点をボカしてきたのは、自民党の農政が、農業者に不評な市場原理主義に基づくものだからである。市場競争に至上な価値をおき、競争の敗者は市場から去れ、という農政だからである。TPPは、その極致である。
農協は、協同組合だから、この考えを採らない。「...万人は1人のために」というスローガンのもとで、敗者を1人も出さない、という考えである。
だから、選挙直前になると、市場原理主義を隠し、協同組合の考えにスリ寄るのである。そうして、選挙が終わると、また市場原理主義に戻る。いままでは、これの繰り返しだった。
だが、今度は違う。市場原理主義の権化ともいうべきTPPをかざして、選挙に臨むというのである。
◇
あえて、そのようにするのは、勝算があるからだろう。勝算の根拠は、いくつか想像できる。
TPP対策の議論を早め、TPP対策を取引材料にして、農業者の自民党支持を取りつけたいのだろう。だから、まだ国会でTPPを批准していないのに、対策の議論を始めている。全く不当なことである。
今国会の会期は、6月1日だし、TPPの審議は4月に入ってからになるだろう。参院選があるので会期は延長できないし、3月末までは、予算審議がある。だから、TPPの審議の期間は、せいぜい2か月しかない。TPPは、それほどの短期間で議了できるほど軽いものではない。
◇
参院選での自民党の勝算の根拠は、TPPに対する農業者の怒りが、選挙に反映できない、という点にもあるだろう。
農村の選挙区は、多くが1人区である。いままでのように野党候補が乱立していたのでは、勝ち目がない。だから自公統一候補の楽勝になる。1人区の楽勝は、選挙全体の勝利につながる。
もしも、野党が侮られて、このような見通しが確実視されれば、衆参同時選挙がある。それが事情通の見方である。アベノミクスの破綻が露わにならないうちに、という思惑もあるだろう。そうなれば、現政権は、長期安定政権になる。そうして、市場原理主義農政が、徹底して行われるだろう。
◇
だが、以上のような見方は、現地の実態が見えない、そして、農業者の怒りの声を聞こうとしない、首相官邸の甘い見通しであり、驕りである。
いま農村には、農業者のTPPに対する怒りがマグマのように地下で渦巻いている。表層からは見えないが、機会があれば、地上に噴出しようとして待ちかまえている。参院選がその機会になるかもしれない。
もしも、野党が反TPPで選挙協力をすれば、1人区は圧勝するだろう。そうなれば、市場原理主義農政も終わりになる。TPPも再交渉どころか、脱退することになるだろう。与党にも激震が走り、市場原理主義政党と、協同組合主義政党との2つに分かれるような、政界再編が行われるかもしれない。
(2016.02.15)
(前回 小泉農政には食糧安保論がない)
(前々回 甘利氏の金銭疑惑を追及する戦略)
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