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小泉農政には食糧安保論がない2016年2月8日

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【森島 賢】

 小泉進次郎氏が、最近、一般経済誌のインタビューに応じ、農政論を語っている。同氏は、昨年秋のTPP大筋合意のあと、自民党農林部会の会長に就任した。自民党農政の最高責任者である。今まで同氏は、農政とは縁が薄く、しかも若手議員なので、異例の抜擢である。
 インタビューをみると、「農業といえば小泉進次郎、小泉進次郎といえば農業…そう言ってもらえるくらい…」(週刊ダイアモンド2/6日号P.33)、と張り切っている。今後は、小泉農政が自民党農政の基調になるだろう。
 同氏は将来の首相といわれている。それだけに、同氏の農政論は注目を集めている。
 この農政論には、いくつかの問題がある。ここでは、食糧安保論がないことを指摘したい。

 小泉農政論には、評価すべき点がある。はじめに、そのうちの2点だけを指摘しておこう(週刊エコノミスト2/2日号)。
 1つは、米についてだが、「大規模化では絶対に米国やオーストラリアにはかなわない」(P.82)という認識がある。これは、いままでの自民党にはなかった正しい認識である。この認識を自民党農政の基礎にすれば、議論は地についたものになるだろう。
 もう1つは、国内の稲作経営の規模拡大についてだが、「ある規模に達したら生産費は下がりにくい」(P.82)という正しい認識がある。この認識は、今後の議論を実態に基づいたものにするだろう。

 だが、しかし、小泉農政論には、食糧安保の考えがない。TPPの議論が始まってから、TPP推進派は、食糧安保をタブーにしてきた。TPPは食糧安保に逆行するからである。だが、見逃すわけにはいかない。
 インタビューをみると、その中には、食糧安保という言葉がどこにもない。食糧自給という言葉もない。これは、決定的な欠点である。そして、これは今までの自民党農政の致命的な欠陥でもある。つまり、食糧自給率を高める政策がない。

 言うまでもないことだが、あらためて言えば、農業の第1義的な社会的責務は食糧の生産である。農業には、どんな非常事態になっても、国民に対して安定的に食糧を供給し続ける責任がある。
 この社会的責務を担っているのが農業者である。だから、社会は彼らの責務の遂行に対して報わねばならない。つまり、再生産できるようにしなければならない。それは、社会が負うべき当然の責任である。
 しかし、社会がその責任を市場経済に任せていたのでは、責任が果たせない。だから、政府が社会の委任を受けて、農業者に報いる。それが食糧安保政策であり、ここに農政の基本的な役割りがある。
 政府が、この役割りを放棄したら、農政はどうなるか。

 今までもそうだったし、今後もそうだが、農業者は弱者だから、政府が恵みを与えている、と考えるのは、とんでもない大間違いである。ここには、食糧安保の考えがない。
 また、農業は補助金漬けだという認識は、この大間違いに基づいている。だから大間違いである。大間違いに基づく議論からは、大間違いの結論しかでてこない。
 この大間違いを、自民党は今まで続けてきたし、今も続けている。そうして、農業者の誇りを傷つけている。

 7年前、民主党が自民党から政権を奪った時を思い出そう。
 あの時、民主党は食糧安保を選挙公約の目玉にし、食糧自給率の向上を農政の第1の公約にした。農政の最も重要な政策を、あらためて高く掲げたのである。
 そうして、食糧自給率の向上に貢献するすべての農業者、つまり高齢農業者も青壮年農業者と同じに、また、小規模農家も大規模農家と同じに、農政の対象にすることを公約した。そうして、すべての米農家に再生産を保証した。
 弱者である農業者に恵みを与えるという考えに基づく農政とは、全く違う。食糧安保に貢献する全ての農業者に報いる、という農政である。
 この農政は、それまで軽視してきた食糧安保政策を、最重視した。それが、圧倒的な支持をえて、政権交代の原動力になった。

 食糧安保政策を軽視する農政は、せいぜい農業者の所得を僅かばかり増やして、窮状を救おう、などという思い上がった政策である。そして、矮小な政策でしかない。
 しかも、なぜ農業者だけ救うのか、という非農業者の疑問に答えられない。
 これでは、農業者からも非農業者からも支持されない。

 小泉氏に期待するのは、こうした自民党農政を受け継ぐことではない。根本から立て直すことである。それには、農政の基本に立ち返り、食糧安保政策を主柱にして、農政を建て替えることである。
 当面するTPP国会での課題は、TPPが日本の食糧自給率を低下させ、食糧安保を危うくすることを直視することである。そうして、食糧安保のため、政府にTPPの再交渉を求めることである。

 食糧自給率の向上は無理だ、という俗説に対しては、食糧生産を2倍にする農政を対置しよう。
 米を飼料や米粉などにすれば、国産の農産物に対する需要は、国内にいくらでもある。食糧生産を2倍にしても、食糧自給率は、今の39%から2倍の78%になるだけだ。まだまだ向上できる。
 小泉氏が、この農政に転換すれば、日本農業に明るい前途を切り拓ける。そして、農業者の熱い支持がえられるだろう。
(2016.02.08)

週刊エコノミスト2/2日号 のリンク先はこちらから

(前回 甘利氏の金銭疑惑を追及する戦略

(前々回 野党のヤル気

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