【コラム・ここがカンジん】否定された地域貢献2016年2月26日
いま「自己改革」という曖昧で意味不明な言葉がさまよっている。第27回JA全国大会の議案も「創造的自己改革への挑戦」である。意味不明な言葉は運動を停滞させ阻害する。そもそもJA全中がまとめた自己改革案(平成26年11月)は、農水省によって完全否定されたものだ。農水省はJAの自己改革の内容を見て法改正の内容を考えるというポーズを取ったが、これは全くのデタラメで、中央会制度の廃止などの改革内容は最初から決まっていたのである。
◆狙いは信共分離
このように政府が考える改革内容とJAの自己改革の内容は、全く相容れないものである。にもかかわらず、JAは政府が全面否定した自己改革をもとに何をしようとするのか。
今後の課題として残された准組合員の事業利用規制は、これから5年の間に、正組合員・准組合員の事業利用状況や農協等の改革の実施状況の調査を行い、結論を得るとしているが、その内容は明らかにされておらず、このままいけば行政のさじ加減でいかようにも措置される可能性が高い。
自己改革発表後の記者会見で、当時の西川農相は、当局の振り付け通り、JAが農業振興はともかく、地域貢献の役割を果たそうとしているのはけしからんと言って見せた。JA大会等で度々決議され、全中が提唱する「食と農を基軸に地域に根ざした協同組合」という経営理念もしくは、学者・研究者等が主張してきた地域農協論は、農水省によって木っ端微塵にされたのである。
地域農協論と言っても、その内容は考える人によって大きく異なる。しかし、その多くは、JAが信用・共済事業などの総合事業を行うことによって、農業のみならず広く地域社会に貢献しているというものであり、こうした地域農協論は今回、政府によって完全否定されたのである。今後の農協改革の最大の争点は、農業振興のためには、JAから信用・共済事業を分離すべきか、あるいは信用・共済事業兼営の総合JAが必要かである。
しかし、この争点は必ずしも明らかにはされていない。今回の農協改革に対する政府の考えは、極めてはっきりしており、農業を産業(職業)として確立させるため、JAを農業専門農協に転換(信共分離)させようとするものだ。こうした政府提案に対し、われわれはどのように立ち向かうのか。それは、JAが総合事業を通じて地域の活性化に貢献しているばかりでなく、現にそうなっているのだが、農業振興のためには総合農協の形が不可欠ということに尽きるのではないか。
◇
今の総合JAをやめて、専門農協的運営に切り替えれば、JA経営は必ず行き詰る。結果は農業振興の担い手が地域から消滅し、農業はさらに衰退することになる。したがって、農業は農業者だけの努力では成立しない、地域住民の力なくしては振興しないという世論を形成していくことだろう。それは決して総合JA維持の方便であってはならない。
そうした新総合JA論は、農水省が言う単純な職能論に立つものではなく、従来の地域農協論に立つものでもない。そもそも、農業は地域なくして成り立つものではないからだ。求められているのは、情勢変化に対応した新たな総合JAの姿であり、農業振興の抜本策は当然として、まずは全国で500万人を超える准組合員の理解を取り付けることだ。准組合員に対して、「パートナー」など言う意味不明で自分勝手な位置づけをやめて、名実ともに組合員として迎え入れ(制限つき議決権の付与)、食を通じてともに農業振興に取り組もうといった意識改革こそが重要ではないのか。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日
-
キウイブラザーズ新CM「ラクに栄養アゲリシャス」篇公開 ゼスプリ2025年4月30日
-
インドの綿農家と子どもたちを支援「PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」に協賛 日本生協連2025年4月30日
-
「日本の米育ち 平田牧場 三元豚」料理家とのコラボレシピを発表 生活クラブ2025年4月30日
-
「子実トウモロコシ生産・利活用の手引き(都府県向け)第2版」公開 農研機構2025年4月30日
-
「金芽ロウカット玄米」類似品に注意を呼びかけ 東洋ライス2025年4月30日
-
令和7年春の叙勲 JA山口中央会元会長・金子光夫氏、JAからつ組合長・堤武彦氏らが受章2025年4月29日
-
【農協時論】農政の基本理念と政策へのJA対応 宮永均JAはだの組合長2025年4月28日