生産調整が不可欠 2016年8月9日
◆生産力を見て 生産者を見ず
2015年10月にTPPの大筋合意がなされ、翌月、自民党は〝農業新時代〟とするTPP対策の追加、または拡充する対策を提言した。やむなく生産現場から声をあげざるを得ないと考えるのは、「安倍政権の政策には、人間に目が向いていない。農業政策には農業生産者をみるべきところに、農業生産力を見ている」と思わざるを得ないからだ。
以下は、TPP大筋合意について「国内対策をしっかり行うので米に影響はない」とした政府見解への不信と政府が示した米対策、特に経営安定対策に対する生産現場からの悲痛な声である。
不信感を高めた 「米に影響なし」
現在、わが国はWTO農業協定によって毎年76.7万t(うちSBS枠10万t)を義務的に輸入している。この量は福岡県の主食用米生産目標数量のおよそ4年分にあたる。にもかかわらずTPP交渉で米国と豪州からSBS方式での特別枠(発効当初3年55.6万t、13年目以降7.84万t、この他に米国枠中粒種5万t)を約束した。
政府は、2013年4月のTPP衆・参議院国会決議を守ったと言い続け、さらに「特別枠に相当する国産米を備蓄米として政府が買い入れ、市場流通量は増えないようにするから市場価格への影響を〝遮断〟できる」としている。
市場流通量は同じでも、この特別枠の安い輸入米の国内流通を認めるのだから、〝安値誘導〟になり〝遮断〟にはならない、というのが現場の考えだ。政府見解は〝まやかし〟以外の何者でもない。2015年12月、福岡県では農民政治連盟推薦の国会議員と意見交換を行った。
出席した議員からは「力不足で盟友の信頼に応えられず、不本意な結果に終わり申し訳なかった。発効までの間に万全でしっかりした対策をとっていきたい」「重要5品目が守られたかと言えば守られていない。TPPが発効されるまで、重要5品目以外にも一つ一つ検証すべきだと思っている。予算については、対応策をしっかり考えていく」等の発言がなされた。
批准阻止に向けて頑張るという発言が聞かれなかったのには残念だが、政府与党の議員からも国会決議違反との判断である。これは生産現場の共通した判断で、政府に対する不信は高まっており、ましてや国産米に対するTPPの影響はないなどと信ずる農業者は誰もいない。
◆過剰米作付けや 安値誘導を招く
政府は2018年度から生産調整の事実上廃止を打ち出した。主食用米については国家管理をできるだけ緩め、農業者・農業者団体が自ら判断して需給調整をやれという、以前の米政策改革に後戻りしている。
この政策の下で起こったことは、都市圏では主食用米を売れるだけ作付けするという過剰作付けであり、やがて37府県に拡大し過剰作付けも7万haを超えた。さらに、翌年の生産目標数量に影響を与える持ち越し在庫を減らすために安値競争となり米価格も下落の一途をたどった。
政権交代という経験を踏まえながら、生産現場では評価の高かった民主党政権下の戸別所得補償方式をバラマキだと批判し、2018年には「米の直接支払交付金(定額部分)」をゼロにすると言い「意欲ある担い手を創出」するというのだから、現実を見た政策とはとても言えない。
まず、大規模専業稲作農業者の経営が持ちこたえられないというのが本音だ。政府は責任を持って用途別の米管理をしっかりと行い、用途別の米の手取り額を安定させるのがTPPに対する生産者の不安を払拭する途であるのに、言っていることとやっていることが反対だ。
◆主食用も"ゲタ"を 望まれる政府管理
自民党政権の品目横断経営安定対策は、1kg341円という高関税で守られた米は「諸外国との生産条件格差から生じる不利はない」ので、価格変動による収入減少の影響を緩和する「ナラシ対策」に止め、麦や大豆など畑作物は「国産には諸外国との生産条件の格差があって不利がある」ので直接支払交付金(ゲタ対策)の対象にした。
これに対して民主党政権の農業者戸別所得補償はゲタ対策ではなかったものの、米の生産にも定額(1.5万円/10a)の直接交付金を交付した。政権を奪還した自民党安倍政権は、これは構造改革にそぐわない面があるとして削減する、2018年には廃止すると言い、かつての品目横断的経営安定対策の理念に逆戻りした。
しかし、毎年76・7万tもMA米が輸入されており、TPPではさらに米国・豪州から特別枠で輸入するという米を、「諸外国との生産条件格差から生じる不利はない」としてゲタ対策の対象から外すのは間違いだ。
主食用米にも「販売価格が生産コストを恒常的に下回っている」作物としてゲタ対策(不足払い)を行って当然だ。それができないというのであれば、生産者米価を標準的な生産費を補てんする価格(1.6万円/玄米60kg)で支えるべきだ。そのためにも政府主体による主食用米生産調整の継続と米の用途別管理が不可欠である。
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