【リレー談話室・JAの現場から】レインボー体操2016年11月25日
◆二村さんとの邂逅
「レインボー体操」は、昭和58年からJA共済の健康管理・福祉活動の一環として始まった。JA全中・家の光、全国のJA女性組織の皆さんの支持を得てロングランを続けている。創始者である二村ヤソ子さんに初めてお会いしたのは、担当課長として平成11年5月に埼玉県浦和西体育館(当時)をお訪ねしたときだ。
館長室ではJA共済でレインボー体操が推奨されることとなった経緯、健康と若さを保つために血液の循環をよくすることの大切さ、血液は義理堅いので手・足・耳などに刺激を与えて呼べばどこにもやってくること、さらにNHK『みんなの体操』づくりの話などをお聴きした。
一息して、整理を待つ資料や書籍のなかに、付箋が付された古い画報誌を見つけた。そこを開くと2ページにわたる大きな写真が文章と一緒に掲載されていた。それは昭和39年の東京五輪直前の『アサヒグラフ』だった。写真と記事は二人の陸上選手の「明と暗」をテーマとしていた。写真は東京五輪女子80メートルハードル(80MH)の代表を決めるレース直後のものであった。二人のうち一人は依田郁子選手。写真の左手で肩を落とすもう一人は二村ヤソ子選手だ。私が偶然に『アサヒグラフ』のその頁を見ていることを二村さんはわかっている。私はしばらく言葉が出ない。なぜ、そのような人がレインボー体操なのか。東京五輪を目指して二村さんがどのような逆境に直面し、そこから抜け出してきたかは、ご本人の話や平成13年8月に出版された二村著『レインボー体操』(家の光協会)などによって知ることとなった。
◇ ◇
昭和35年に80MH・11秒5の学生記録を持って八幡製鉄に入社。4年後の五輪を目指して練習に励んでいた。当時11秒台で走る選手は日本では三人だけ。その一人が、依田郁子選手(故人・東京五輪80MH入賞者)。その日は春とはいえ陽の落ちた夕暮れは肌寒く、あと一本だけ走ろうとスタートラインについた。ピストルが鳴り四台目のハードルを越えようとした瞬間に左足がハードルに接触して転倒してしまい、靭帯断裂の重傷を負ってしまった。足はギブスで固定され、落胆し泣いて暮らした。治療が1年続き、マッサージとリハビリが温泉で始まった。
その闘いを通じて血液の循環の大切さと東洋医学の呼吸法などを学んだ。これらが後のレインボー体操につながった。綱引きの手が体から離れたら息を吸い、手を体に近づけたら息を吐くという「綱引きのリズム」を意識して血液を循環させる、それが「レインボー体操」の原理だ。マッサージと呼吸法により、少しずつ左足が回復に向かい精神面でも充実していった。
◇ ◇
このようにして二村さんは東京五輪選考会に出場したが、結果は「暗」であった。選考の標準記録に0.1秒届かない11秒3。メダル獲得を期待された依田、復帰の目標を五輪出場に定めた二村。異なる軌道の惑星が直列するように競技したのだ。二村さんは自らの「暗」について、「選手生活は終った。やり残したことはない」と語った。むしろ、後に二人の選手が迎えた運命こそが、『アサヒグラフ』がとらえた「明と暗」を超えてより深い意味合いをもつこととなった。
それから二村さんは中学校の体育教師に就いた。その13年後に交通事故に巻き込まれ教師の道を退くこととなり、度重なる己が悲運に泣いた。しかし、このときも逆境から復帰して浦和西体育館に活動の場を得て、ついにレインボー体操を完成させた。JA共済連と二村さんとの出会いは、このようなときであった。
依田郁子は東京五輪で国民の大きな期待を背負い奮闘したが、メダルの獲得はならなかった。その後、一人のやさしい主婦として生きて、長くはない人生を終えている。『アサヒグラフ』に載った女子80MHの五輪選考会の写真と記事。付箋を付して保存し続けた二村氏の思いは知る由もないが、「明と暗」を分けた二人の陸上選手のうち、残された元選手の人生について親しみをもって思わずにはいられない。
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