論理で政府を追いつめよ2016年12月26日
今年は、あと数日を残すだけになった。
国会では、今年も日本の将来を決める、いくつかの重要な法律が成立した。その多くは、審議が不十分のまま、最後は強行採決で成立した。政府と与党は、充分な時間を使って審議したというし、野党は審議時間が不充分だという。先日は、大島理森衆議院議長が、こうした国会審議について、異例の苦言を呈した。
問題は審議時間だけではない。政府は、のらりくらりと論点をはぐらかして、その場しのぎの答弁で時間かせぎをした。一方、野党は、それを追及しきれないでいた。
問題は、どれほど濃密な審議をして、各政党の主張を国民の前に明らかにしたかである。
1月から始まる国会でも、こうした状況を続けるなら、国民の国会不信、政治不信は、ますます鬱積するばかりだろう。つぎの選挙で爆発するかもしれない。1強多弱におごる与党に鉄槌が下るかもしれない。
ここで提案したいのは、国会法に基づく「質問主意書」の活用である。
国会法第74条によれば、国会議員が提出した質問主意書に対して、政府は答弁する義務がある。問答は文書で行われ、公開される。だから、いい加減な問答はできない。ここが事前通告による質問とは、決定的に違う。また、答弁書の一字一句にこだわって、再質問もできる。つまり、議論を深めることができる。そうして、政府を論理的に追いつめることができる。だが、いまは充分に利用されていない。
この制度による質問は、前の国会で231件あったが、その大部分は、具体的ではあるが、個別の問題についての質問だった。つまり、国政の基本にかかわる質問は、ほとんどなかった。しかも、前の答弁に対する再質問はなかった。
これでは、双方が言いっぱなしになってしまって、問答の形にならない。つまり、議論は深まらない。そして、時間だけが過ぎていく。
◇
国民が質問主意書の制度に期待しているのは、基本政策についての真摯な議論である。劇場型に堕ちた、その場かぎりの言い合いではない。
劇場型の議論では、政府の答弁は、野党の質問に答えず、あるいは、論点を外して答えるのだが、野党は、それ以上の追及をしない。中途半端のままで、他の論点に移り、あるいは、質問者が交代する。これでは、議論は深まらない。
例えば、いまの重要論点であるEPAやFTAなどの自由貿易体制についての議論をみてみよう。TPPもまだくすぶっている。
政府は、自由貿易は国益を増すという。一方、多くの野党は、国益を減らすという。議論は、どうどうめぐりになって、そこで終わっている。国民の誰にとって、どのような利益が、どれ程あるかという議論に進まない。そこを明確にしなければ、議論は深まらない。
問題の焦点は、自由貿易は経済的強者である大資本の利益か、それとも経済的弱者である農業者や労働者の利益か、という点にある。この論点は、全世界で、ようやく重大な政治問題の焦点になってきた。
◇
この点についての政府の見解は、犠牲になる国民もいるが、多くのの国民の利益になる、というものである。そして、利益者の利益は、やがて犠牲になる国民の上に滴り落ちる、という。だから結局、全国民の利益になる、という。
この見解を一部の野党は容認している。しかし、多くの野党は否認している。また、否認する野党のなかでも、弱者の犠牲のもとでの強者の利益だ、という議員は、それほど多くない。
◇
野党のなかには、第2自民党といわれている党もあるので、野党第1党の民進党をみよう。
民進党は、基本的には自由貿易体制を容認している。だが、自由貿易によって弱者が犠牲になるし、強者の利益が弱者の上に滴り堕ちる理論は破綻し、格差が拡大した、といっている。
つまり、民進党は、自由貿易には賛成だが、それに必然的に結果する格差拡大には反対だという。これは、明らかな矛盾である。いったい民進党は自由貿易に反対なのか、賛成なのか。いったい、自民党の政策と、どこがどう違うのか。
この矛盾を解消するには、党内の議論はもちろん、政府との間で、もっと活発な、そして、真摯な議論を行わねばならない。政府の、その場しのぎの答弁を、もっと厳しく追求しなければならない。
そうして、質問主意書の制度を活用した論理的な議論によって、劇場型の議論から抜け出すことを期待している。そうすれば、国会の議論が活性化するだろう。それが、国会外の抗議運動と共鳴しあえば、日本の政治は、再び生き返るだろう。
新年に期待しよう。
(2016.12.26)
(前回 農協運動の不連続な展開)
(前々回 自由貿易の欺瞞)
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