(014)コープとカンパニー:2つの統治のバランス2017年1月13日
前回、Arla Foodsの話を紹介した。デンマークの酪農家達が作ったこの協同組合は、現在では7か国、1万2650人(2015年)の組合員と、それを支える1万9000人の職員からなる多国籍かつグローバル化した協同組合である。
この組織の中では、協同組合と「会社」という2つの原理が非常に上手くバランスしている。年次報告書(2015)年に記された統治モデルを簡単に紹介しておこう。緑と青の三角形がこの組織の統治形態を表している(注1)。
※ ※ ※
最初に緑の三角形、つまり「協同組合の統治」の部分を説明しよう。
Arla Foodsの組合員(Arla Foodsではオーナーと呼ぶ)はデンマーク以下7か国の生産者である。内訳は、デンマークとスウェーデンが各々約3000人、ドイツとイギリスが各々約2600人、ベルギーが約900人、ルクセンブルクが約200人、オランダが約60人である。
これら7か国には、各国の実情に応じて民主的に運営されている地域カウンシル(=地区の総代会)がある。これらは概ね元の農協組織と言って良い。各地域カウンシルは、そこから地区総代(英語ではBoard of Representatives)を選出する。地区総代数は191であるが、そのうち179は協同組合から、残りの12名はArla Foodsの職員(英語では同僚の意味のcolleaguesが使われている)から選出され、1年おきに改選される。
また、地区総代会は少なくとも年に2回開催され、利益の分配などについて決議する他、地区総代の中から長期的な意思決定を行う18名の役員(BOD:Board of Directors、うち15名は生産者から、そして3名は職員から)を選ぶ(注2)。
役員会は、Arla Foods全体の活動を監視するだけでなく、業務執行を行う執行ボード(Executive Board)を任命する。
※ ※ ※
次に組織としての統治の部分、これは青の3角形の部分である。
Arla Foodsでは、執行ボード(Executive Board)と、執行役会(Executive Management Group)が「会社」としての組織全体を共有統治している。
執行ボードはCEO(最高経営責任者)と副CEOの2名から構成され、グローバルな視点から組織の長期的成長を目指した戦略を実行し、各年の目標をフォローする。
その上で、最低年に11回は開催される執行役会では、日々の業務の進捗状況、戦略の実行準備、資金調達や人事案件等を大局的に検討する。
彼等の下に機能別ボード(Functional Board)がある。これは資金調達、サプライチェーン、イノベーション&マーケティング、顧客対応、人材育成、の5つの分野における部門横断的な議論を行い、グローバルな方針を決定する場であり、年に4~6回開催される。そして、これらの機能別ボードの下に、必要に応じて個別の委員会が設定される。例えば、行動規範委員会などがあるが、この委員会の委員長はCEOが担当している。
そして、これら機能別ボードの下に連なる形で、1万9025人の職員が働いている。
※ ※ ※
さて、何度も言うように、Arla Foodsは協同組合(cooperative)であるし、年次報告書にも明確に「Arla is a cooperative owned by dairy farmers.(Arlaは酪農家により所有された協同組合である)」と明記されている。ただし、「会社」(カンパニー:company)という形態と用語を様々なところで活用していることも理解しておきたい。このため、日本でもArla Foodsはもはや「会社」化し協同組合ではないと考えるケースがあるが、これは大きな誤解である。筆者には国別の会社法の詳細を述べる力量は無いが、少なくともArla Foodsについては「会社」化してカンパニーにはなったが、通常の法人・株式会社(いずれもcorporation(注3))とは異なる。
実際、我々は英語のcompanyとcorporationをよく混同する。companyという語の意味は、協同組合だけでなく、個人商店や株式会社やパートナーシップ、協会(association)なども含む広い意味での「会社」、つまり事業組織である。法人化していようがいまいが、事業組織であればcompanyである。一般に、株式会社はcorporationであるが、株式会社でもcompanyということは可能である。
こうした点に注意した上で、カンパニーとして活動している協同組合組織の戦略と統治機構を充分に検討すべきではないだろうか。
注1:Arla Foods,"Arla's Governance Model", 2015 Consolidated Annual Report, p48.
注2:複数の異なる国の組織の集合体であるArla Foodsには、地区総代会の他に、特定国独自の課題を扱う国別総代会(National Council)がスウェーデン、デンマーク、中央ヨーロッパ、イギリスという形で4つ存在している。
注3:ちなみに、筆者の属する大学は公立大学法人であるが、その英語名称はPublic University Corporationである。corporationには地方自治体・公共団体の意味もあるからややこしい。
重要な記事
最新の記事
-
新農相に鈴木憲和氏 農政課題に精通2025年10月22日 -
鳥インフルエンザ 北海道で今シーズン1例目を確認2025年10月22日 -
【2025国際協同組合年】協同組合間連携で食料安全保障を 連続シンポ第7回2025年10月22日 -
身を切る改革は根性焼きか【小松泰信・地方の眼力】2025年10月22日 -
将来を見通せる農政 一層前に 山野全中会長が談話2025年10月22日 -
丸の内からニッポンフードシフト「NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2025」開催 農水省2025年10月22日 -
来年の米生産 米価高を理由に3割が「増やしたい」米生産者の生産意向アンケート 農水省2025年10月22日 -
全農チキンフーズから初の農協シリーズ「農協サラダチキン」新発売2025年10月22日 -
世界選手権出場かけて戦うカーリング日本代表チームを「ニッポンの食」でサポート JA全農2025年10月22日 -
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」鹿児島の食材たっぷり「かごしまの宝箱プリン」を紹介 JAタウン2025年10月22日 -
京野菜セットなど約70商品が送料負担なし「JA全農京都ショップ」で販売中 JAタウン2025年10月22日 -
「北海道JAるもいフェア in 東京競馬場」とにかく明るい安村が登場 開催2025年10月22日 -
大量合成可能なジャガイモシロシストセンチュウ ふ化促進物質を発見2025年10月22日 -
世界各地から収集したイネ遺伝資源「NRC」整備とゲノム情報を公開 農研機構2025年10月22日 -
【消費者の目・花ちゃん】世界陸上 生の迫力2025年10月22日 -
柿谷曜一朗氏の引退試合「THE LEGEND DERBY YOICHIRO KAKITANI -LAST MAGIC-」にタイトルパートナーとして協賛 ヤンマー2025年10月22日 -
柿「太秋」出荷本格化 JA鹿本2025年10月22日 -
台風22・23号の被害に伴う八丈島へ支援物資を送付 コープみらい2025年10月22日 -
店舗、宅配ともに前年超え 9月度供給高速報 日本生協連2025年10月22日 -
鳥インフル 米ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月22日


































