トランプ現象...2つの評価2017年1月16日
トランプが新大統領に選出されたことについて、2つの評価がある。
1つは、体制派に対する国民の反発だ、というものである。この評価は、あまりにも情緒的である。だから、表面的な評価で終わってしまう。思考はそこで停止して、それ以上に深く進まない。
それに対して、国民の誰が現体制の何に対して反対したのか、という評価に進むのが、もう1つの評価である。
いったい、誰が何に反対したのか。
トランプが強調しているのは、雇用問題である。これまでの自由貿易政策と移民政策の結果、米国の雇用が奪われたという。だから、是正して雇用を回復するという。
これは労働者、つまり経済的弱者の立場に立った政策である。大資本、つまり、経済的強者が推進する自由貿易政策と低賃金労働者の移民政策に反対する政策である。
この政策を、国民の大多数を占める弱者が支持したので、大統領に選出されたのである。
だが、トランプは、この弱者のための政策を、今後すんなりと進められるだろうか。強者が反対したばあい、この政策を貫くことができるだろうか。
◇
さっそくトランプは、大企業への恫喝ともいえる要求を始めた。そして、トヨタをはじめ、いくつかの大企業が、米国の雇用を増やすトランプの政策に協力することを誓った。メキシコの労働者が作った自動車を米国へ無税で輸出することで、米国の雇用を減らすことはしない、というわけである。
この政策を、米国の労働者は歓迎するだろう。しかし、大企業はどうか。大企業は、この政策で米国内の労働市場が逼迫して、賃金が上がり、コスト増の原因になり、利潤が減り、市場競争に負けることを怖れるだろう。労使の利害が対立するのである。このときトランプは、あくまでも労働者の立場に立つのか、それとも大企業の立場に寝返るのか。
◇
そこでトランプは、市場競争の範囲を狭めて、国際的な市場からある程度の距離をおこうという。そうしないと、メキシコなど低賃金国との労働力の安売り競争に負け、米国の雇用が奪われる、というわけである。
だからといって、鎖国しようという訳ではない。米国の製品を他国へ売りたいし、他国の製品はあまり買いたくない。だから、日米FTAのような2国間の貿易交渉は、今後も強力に進めるだろう。
では、それで問題は解決できるか。いまの最大の問題は、中間層の貧困化による格差の拡大である。つまり、中間層を分解して、大多数の労働者と、ごく僅かな数の資本家にするという問題である。この問題を解決できるか。これは、資本主義が生まれながらに持っている性格である。だから、米国が資本主義国であるかぎり、この悪い性格を免れない。
このように、格差問題は、自由貿易だけが原因ではない。自由貿易は、この悪い性格を先鋭化し、顕在化しただけである。だから、自由貿易に反対するだけでは、格差の根本を断つことはできない。それゆえ弱者の支持は、それほど強力なものにはならない。
◇
トランプが弱者から強く支持され続けるには、資本のこの悪い性格を矯正するしかない。
それは、いったん労賃と利潤に分配されたものを、税金やらセーフティネットとやらで分配し直すことではない。分配段階で調整するのではなく、生産の最終段階での、資本による分配に規制を加えることである。つまり、生産段階での資本に対する社会的規制である。
大統領候補だったサンダースがいう社会主義を目ざす道は、この道の1つだったろう。彼も弱者から予想以上の支持を得たことを忘れてはならない。
トランプに期待したいのは、今後も弱者を味方にし続けて、大資本への規制を強めることである。そうして、弱者の支持のもとで、米国の新しい国家像を創り上げることである。それは資本主義諸国の見本にもなるだろう。
(2017.01.16)
(前回 弱者の時代の幕明け)
(前々回 論理で政府を追いつめよ)
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