【読書の楽しみ】第11回2017年2月25日
★竹内早希子
『奇跡の醤』
(祥伝社、1836円)
陸前高田の老舗醤油会社である八木澤商店は3・11の大津波で工場すべてが消滅し、命ともいうべきもろみや杉の桶など何もかも失ってしまいます。誰もが200年の歴史はもうこれで終わりだと思ったとき、再起を目指してゼロから立ち上がったのは9代目社長の河野道洋さんでした。
本書は、津波で陸前高田の市街が壊滅し多くの人命が失われる場面に始まり、人々が連帯しながら街の再生に取り組む姿が描かれます。単に一企業の存亡の危機と再生の物語に終わらせない構成が物語に厚みを加えているのですが、そうはいってもやはり八木澤商店復活のドラマは起伏に富んで読ませます。
苦難の数々の間には社長と従業員の葛藤があり、奇跡ともいうべきもろみの発見があるなど、安易に使いたくない言葉ですが「感動的な」場面がいくつも出てきます。
何よりも岩手の丸大豆と国産小麦にこだわり続ける醤油づくりというのが好ましく、震災前の味と香りと風味の、つまりは本物の醤油に再びどうたどり着くかという点で興味をつなぎます。
企業経営の原点、人と人のつながり、そしてコミュニティのありよう、いろいろ勉強になりました。なお書名の「醤」は「ひしお」と読み醤油の元のことです。
★朴一(パク・イル)
『在日マネー戦争』
(講談社+α文庫、680円)
かつて朝鮮半島からたくさんの人たちが日本へやってきました。彼らは戦中戦後の厳しい社会情勢の中で、民族差別に苦しみながら社会に定着していきます。在日コリアン、あるいは単に在日と呼ばれる人たちです。
本書は大阪市大教授の在日3世が、経済界で活躍した在日の姿を金融の世界を中心に描いたものです。闇市やコリアン商店街で財をなし、在日対象の信用組合の設立から再編統合、本国での銀行設立、そして経営危機と、とても生き生きとした話の展開には思わず引き込まれます。
戦後、日本屈指の大富豪となった阪本紡績の阪本栄一、タクシー革命の風雲児と呼ばれたMKタクシーの青木定男といった人たちも登場します。差別に苦しみながらそれをバネにしてのし上がっていくそのたくましさには感服させられます。
微妙な日韓関係、トランプ大統領の民族差別などを見るにつけても、在日の人たちをもっと理解することはとても大事なことではないかと思いながら結構面白く読みました。
★森田健司
『明治維新という幻想』
(歴史新書・洋泉社、1026円)
明治維新および明治という時代についての私たちの知識は、大抵はいわゆる薩長史観に基づいています。
歴史というものは勝者が自己に都合よく作り上げ、不都合な事実は抹消してしまうことは、いつの時代にもありうることです。もし日本が先の大戦に勝っていたら、昭和史などは今、陸軍史観によってひどいことになっていたでしょう。
本書はまずかわら版や錦絵を材料に、江戸の庶民が乱暴狼藉の薩長土肥を嫌い、むしろ幕府に肩入れしていた事実を紹介します。庶民は幕府にさしたる不満はなかったのです。
薩長軍は幕府側の諸藩を無理やり戦争に巻き込み制圧していきます。つまり新政府軍に目をつけられた長岡、会津、庄内、桑名の悲劇の話が続きます。
そして幕府側から見た明治維新、「維新の三傑」といわれた木戸孝允、大久保利通、西郷隆盛の「負の実像」など勝手知った正史とは違う維新像はなかなか刺激的で、お勧めです。
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(10月1日付)2025年9月19日
-
【注意報】ダイズ、野菜類、花き類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2025年9月19日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】トランプ流企業統治改変の怪しさと日本への影響2025年9月19日
-
【サステナ防除のすすめ2025】秋まき小麦防除のポイント 除草とカビ対策を2025年9月19日
-
農業土木・鳥獣対策でプロフェッショナル型キャリア採用 課長級の即戦力を募集 神戸市2025年9月19日
-
「ヒノヒカリ」2万9340円 JAおおいたが概算金 営農支援が骨子2025年9月19日
-
米価下落に不安の声 生産委員 食糧部会2025年9月19日
-
【石破首相退陣に思う】地方創生、もっと議論したかった 日本共産党 田村貴昭衆議院議員2025年9月19日
-
配合飼料供給価格 トン当たり約550円値下げ 2025年10~12月期 JA全農2025年9月19日
-
(453)「闇」の復権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月19日
-
「1粒1粒 愛をコメて」来年産に向けた取り組み 令和7年度 水稲高温対策検討会を開催 JA全農ひろしま2025年9月19日
-
9月21日に第6回「ひろしまの旬を楽しむ野菜市」 「3-R」循環野菜や広島県産野菜を販売 JA全農ひろしま2025年9月19日
-
JA全農主催「WCBF少年野球教室」熊本市で27日に開催2025年9月19日
-
「長崎県産和牛フェア」東京・大阪の直営飲食店舗で開催 JA全農2025年9月19日
-
大阪・関西万博で「2027年国際園芸博覧会展 未来につなぐ花き文化展示」開催 国際園芸博覧会協会2025年9月19日
-
東京科学大学と包括連携協定を締結 農研機構2025年9月19日
-
日本の稲作を支えるデジタル技術を大阪・関西万博で紹介 BASFジャパン2025年9月19日
-
素材のおいしさ大切に 農協シリーズ「信州あづみ野のむヨーグルト」など新発売 協同乳業2025年9月19日
-
オートノマス水素燃料電池トラクタを万博で初披露 クボタ2025年9月19日
-
農業の未来を包装資材で応援「第15回 農業WEEK」出展 エフピコチューパ2025年9月19日