(032)「五穀誕生」に関する雑感2017年5月26日
一昔前まで「五穀って何?」という質問は当たり前すぎて質問にすらならなかったが、最近はそうでもない。そもそも、コメ、麦、豆...位までは連想できても、「粟(あわ)」など知らない大学生は意外に多い。知っている人でも人が食べるものではなく「小鳥のエサ?」という認識が強いかもしれない。
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ところで、多くの人は日本の古代神話を学校では学んでいなくても、天岩戸(アマノイワト)の話は、親や祖父母から聞くか、子供向けの本などで読み、ご存じかと思う。
極めて簡単に言えば、太陽神である天照大神(アマテラスオオミカミ)が天岩戸に隠れ、世界が暗闇につつまれて困った。神々が相談し、岩戸の中に隠れた天照大神の気を引こうとして宴会を催し、そこで外の騒ぎを訝り顔を覗かせ鏡に映った自分の姿を自分以外の貴い神だと誤解した際に、塞がれていた岩戸を怪力の手力男(タジカラオ)が開き、天照大神を外に連れ出し、世界に光が回復したという話である。
この時の暗闇は日食の事ではないかとも考えられるが、それはここでは問題ではない。また、岩戸の中に引き籠るに際し、どのようにして1人で岩戸を閉めたのか、また岩戸から顔を覗かせた際にもどうやって1人で巨大な岩を動かしたかなども問わない。
※ ※ ※
実は、この話にはここで記しておきたい「五穀」に関する極めて重要な先がある。そして、多くの話の中では、その重要なポイントが意外と伝えられていない。
現代風に言えば、一度岩戸の中に引きこもり、再び外に出てきた天照大神を迎え、神々は喜び、太陽が輝く世界と天照大神を祝し、さらに宴会を続けたのである。流石に八百万(ヤオヨロズ)の神々、中には食べ物の神がおり、名を大宣津比売神(オオケツヒメノカミ)という。この神は、体中から様々な食べ物を取りだし料理を作る能力を持つため、こうした宴会には不可欠な存在であったようだ。
そもそも天照大神が天岩戸に籠った理由は、弟である須佐之男命(スサノオノミコト)の乱暴により神に捧げる服を織る織女が死んだからである。途中は省略するが、天照大神を加えて再び楽しく宴会を開いている神々を見て、須佐之男命は大宣津比売命を切り殺してしまう。古代神話はどこの国のものでもこうした残酷な場面が多い。
それでも流石は食べ物の神、殺された身体から蚕、稲、粟、小豆、麦、大豆が生えてきた...というのが、日本の古代神話における五穀誕生の下りである。その後、須佐之男命は神々により高天原(タカマガハラ)から追放され、出雲へと赴くことになる...というのが一連の話であり、ここから物語はさらに続く。
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さて、原文は漢字のみであるが、この中で最も重要な「五穀誕生」の下りを書き下し文と現代語訳で記すと以下のとおりとなる(注1)。
「故(かれ)、殺(しい)さえし神の身に生(な)れる物は、頭(かしら)に蚕(かいこ)生り、二つの目に稲種(いなだね)生り、二つの耳に粟(あわ)生り、鼻に小豆(あずき)生り、陰(ほと)に麦生り、尻に大豆(まめ)生りき」
「こうして殺された神の身体から生まれた物は、頭には蚕が生まれ、二つの目には稲種が生まれ、二つの耳には粟が生まれ、鼻には小豆が生まれ、陰部には麦が生まれ、尻には大豆が生まれた」
※ ※ ※
通常、五穀とは、米、麦、粟、豆、黍(キビ)または稗(ヒエ)であるが、実は時代や地域により微妙に異なる。上記で紹介したように、『古事記』では、稲、粟、麦、小豆、大豆であるが、『日本書記』では、小豆の代わりに稗が入り、小豆、大豆はまとめて豆とされている。
したがって、仮に、食を学ぶ学生に対し、「五穀とは何か」という問いをするのであれば、是非、こうした神話の中における「五穀誕生」の話も合わせて伝えておきたい。
神話は神話であるかもしれないが、『古事記』や『日本書記』が書かれた時代から、我々の先祖は「五穀」と称される様々な穀物や蚕と一緒に生きてきたし、生きるための大事な食料として敬ってきたということを理解しておきたい。
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こうした話は、これまで講義や講演の中でのみ機会を見て伝えてきたが、そろそろ広く伝えた方が良いと思い、古典などは専門外ではあるがあえて記した次第である。解釈の誤解もあるかとは思うが、世界の穀物について理解するには、ウルトラ・スーパー・ドメスティックな『古事記』の世界からわかることもあるという雑感である。
注1)出典はいずれも、萩原浅男、鴻巣隼雄、『古事記・上代歌謡(日本古典文学全集1)』、1973年、85-86頁による。
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