民主主義の神髄は農協にあり2017年5月29日
島根県のすべての農協が合併して、1県1農協になったのは一昨年の春だった。いまさら古い話を持ち出すのは、いま、民主主義に逆行する動きが、ますます強まっているからである。
一強政治のもとで、安倍晋三首相は民主主義を破壊している。反対論には耳を貸さないし、国会での議論は無視する。まるで、独裁政治を目指しているようだ。
これとは反対で、農協には健全な民主主義が息づいている。労働運動や生協運動や、若者の民主主義を守る運動が停滞しているいま、そして、民主主義の守護神であるべきマスコミの多くが、権力にすり寄って堕落しているいま、日本の民主主義は農協運動が支えている。
島根県の農協合併は、97%の組合員の賛成で決まった。圧倒的な多数の賛成で決まったといっていい。反対は僅か3%だった。
その直後、新組合の当時の萬代亘雄組合長は、「この3%の人たちが、あとで、やはり合併してよかったと思ってもらえるような農協にしたい」と抱負を語った。まことに感動的な挨拶だった。
これこそが民主主義の神髄である。
◇
いつも「競争!競争!」と叫んでいる安倍首相が、もしも萬代組合長の立場に立ったら、どうだろうか。このようには言わないだろう。「勝った 勝った 万歳!」とは言わないまでも、内心では、勝ち誇るだろう。そして敗者をムチ打つかもしれない。
民主主義は、物事を多数決で決めることだという。その通りだが、しかし、それは一面的な理解である。決める前の徹底した議論が大前提である。徹底した議論の末に、多数の人の判断に従って物事を決める。そして、決めた後でも反対した人の考えを真摯にかみしめる。
これが真の民主主義である。人類が、共同社会の長い歴史のなかで築き上げた合意形成の最も優れた方法である。そして、萬代組合長にあって、一強政治の頂点にいる安倍首相にはないものである。
だから萬代組合長の冒頭の発言が、多くの人から共感されたし、安倍首相の一強政治は、多くの人から非難される。
◇
なぜ、これほどの違いがあるのか。そして、どちらが人類の目指すべき社会なのか。
農協には、民主主義が生きいきと輝いている。それは、農協が同じ利害関係をもつ経済的弱者の共同社会だからである。だから、話せば分かるという人間関係の経済的基盤がある。
これに対して、安倍首相の支持基盤は経済的強者にあって、強者の利益を擁護する立場に立っている。弱者と同じ共同社会にあって、弱者のための政治を行っているように見せかけているが、実際はそうではない。それゆえ、弱者とは利害が対立する。だから、弱者との議論を恐れている。
安倍首相が、議論から卑屈に逃げ、強気に見せかけて、反民主主義的な一強政治を行っているのは、ここに原因がある。これを捨てないかぎり、国民の大多数の弱者のための政治を行うことはできない。
◇
安倍政治が一強政治と非難されないためには、1%の強者のための政治ではなく、99%の弱者のための政治に転換しなければならない。そうすれば、議論を恐れなくていい。反対者とも徹底した議論ができる。議論を尽くしたうえで物事を決めることができる。
そうすれば、民主主義が復活するし、安倍首相は後世に残る大政治家になれるかもしれない。
◇
最後に言っておこう。
われわれは、民主主義を否定していうわけではない。また、1人の反対もなく、全員の賛成で合意形成をせよ、といっているわけでもない。議論もしないで、多数で決めさえすればいい、という考えに反対している。そして、反対意見を聞こうともしない。
もう1つ。
われわれは、競争を全面否定しているわけではない。相手を打ち負かし、再起できないまで打ちのめすための競争を否定している。
しかし、たがいに切磋琢磨しあうための競争は、否定するどころか協同組合の基本精神である。それがないと、協同組合の活力が失われる。
(2017.05.29)
(前回 いつまで続く一強政治)
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