(047)氷島つれづれ2017年9月8日
インターネットを通じ世界中の情報が自由に入手できる時代でも、意外に抜けているものがある。それに気が付けば、実は比較的簡単に必要な基礎情報は入手できる。気が付かなければ、そのままになるだけだ。今回はその一例を紹介したい。
「氷島」、別名を「氷州」、これはアイスランド共和国の別名である。
故あって現在、筆者の家族(妻、子供2人)はアイスランドにいる。我が家の子育ては最終段階に来ているが、基本的ポリシーの1つは学生時代に日本から出来るだけ遠い国で1年間を過ごすことだ。筆者は学生時代にブラジル、娘は数年前にフィンランドで1年を過ごしている。英語が大の苦手な妻は筆者と一緒にやむをえず(?)米国で通算6年を過ごしたがこれは別枠とする。
この8月から息子が約1年間、氷島へ行き、それを口実として妻には長年国内外を連れまわした事に対する慰労、社会人の娘には通訳兼やや遅い夏休みで息子のいるアイスランド珍道中の付き添いを打診した。まあ滅多にないこと話はすぐに決まった。
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さて、これを機会にアイスランド農業に関して調べてみると意外に情報が少ないことが判明した。そもそもこの国は、ノルウェーやスイスと同様、EUに加盟していない。農林水産省のHPには「主要国の農業概況」という頁があり、欧州としてEU各国およびスイスやノルウェーはあるがアイスランドは名前すらない(2017年9月3日時点)。日本と同じ島国で調査捕鯨を行っている国でもあるのに...だ。
IMFの推定値では2016年の1人当たりGDPで5万7889ドルと、日本を大きく上回る国である。日氷貿易(というかどうかは別にして)では、日本からの輸出61億ドル(自動車、電機機器、金属製品、一般機械)、アイスランドからの輸入185億ドル(魚介類、鉄鋼、肉類、医薬品等)と大幅な輸入超過である。
こうした国に対して、実は火山と世界最大の露天温泉(ブルーラグーン)、そして首都の名前くらいしかまともな知識がないことに遅ればせながら気が付いた次第である。
総人口33万人と言えば、秋田市(31万人)よりやや多く、東京都北区(34万人)よりやや少ない。国土面積10.3万平方mは北海道(8.3万平方m)よりやや大きい。ただし、一般にはかなり余裕があるように見える北海道ですら、人口は548万人と、アイスランドの約17倍であることを考えれば、余裕の規模が異なる。
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アイスランド政府が公式統計として初めて出した2010年の農業構造調査によると、同国には南部を中心に2592の農場がある。農業団体による2009年の数字では農場数は3045のため減少傾向である。耕作可能地は国土の15%だが、実際に耕作されているのは2%未満である。
2011年の数字を見ると、肉牛7万2733頭、酪農牛2万5661頭、羊47万4759頭、豚3万4281頭、家禽37万0063頭という数字が並ぶ。
中でも興味深いのは馬7万8277頭である。統計の時期が異なり厳密な比較はできないが、2009年時点で見た場合、ヨーロッパ大陸で最も馬が多いのはデンマークの2万6380頭、次いでスウェーデンの2万2041頭である。しかし、この年のアイスランドには7万7000頭の馬がいる。日本の9万6600頭には及ばないが大した頭数である。現代ヨーロッパにおける馬の供給という点から見た場合、アイスランドは群を抜いていることがわかる。私自身は競馬はやらないが、かつて燕麦の取引をやっていたことがあるため、いずれ機会があれば是非調査に行きたいと思っている。
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なお、アイスランドは再生可能エネルギー、特に地熱発電が盛んである。これがアルミ精錬や鉄鋼原料の生産に大きく寄与しているだけでなく、野菜の温室栽培なども実施している。2011年の数字を見ると、トマト約1600t、ジャガイモ約7000tなどという数字に気づく。
息子が送ってきた美味しそうな大学の学食の写真にはコメが含まれていたが、どこからの輸入なのかは不明である。
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さて、冒頭で述べた「氷島」と言えば、我々の世代は萩原朔太郎の詩集『氷島』のような厳しいイメージかもしれないが、実際は非常にユニークな国家運営を行っている国でもある。もちろん、水道水はそのまま飲める。現地到着後、海岸沿いを散歩した息子が送ってきた動画で、道端の給水機から美味しそうに水を飲んでいるものがあった。機会を見て氷島の食料と農業システムをもう少し調べてみる楽しみができた。
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