(054)マシュマロ・テストと学生・農業2017年10月27日
今から50年ほど前に米国で行われた有名な心理学の実験に、「マシュマロ・テスト」と呼ばれているものがある。内容を簡単に言えば、部屋の中にいる小さい子供の前に、皿に乗せたマシュマロを1つ置き、「15分我慢したらもう1つあげる」と言い、部屋に1人にする。その結果、我慢が出来た子供、何とかマシュマロから注意を逸らそうと必死になる子供、我慢が出来なくて食べた子供、というような実験である。
実はこの実験は奥が深い。最終的に検証しているのは、子供の特性ではなく、各々の子供が成長したときに、どのような社会的行動をとるのか、言い換えれば小さいときの自制心や集中力とその後の社会的行動との関連性を考察する実験である。
この実験は、1970年に行われ、その後、1988年と2011年に追跡調査が行われたという。非常に興味深いことに、追跡調査の結果は、自制心や集中力という子供の特性はどうも成長後も持続するということのようだ。「...のようだ」という曖昧な表現を用いたのは、筆者がこのコラムの執筆時点で全ての研究成果のオリジナル論文を見ていないからである。インターネットで検索すれば、いくらでもこの実験に関する記述があり、恐らくはそうなのだろうが、それでも原論文を見ていない以上、推定表現しか出来ない。
※ ※ ※
もっとも、このような科学的事実がなくても、目の前の短期的な成果と、将来の不確実でより大きな成果の選択を迫られた場合、多くの人は現実的な選択をする可能性が高い。
一番端的な例は、筆者の身近にいる大学生である。特定の課題を出すと、まず誰かが作った過去の正解を検索する。あるいはその課題についてより詳しい人に質問する。つまり、課題の答えを自ら考えるのではなく、「誰が正解を知っているか」を考えるという行動が非常にしばしば起こる。笑い事ではないが身に覚えのある人も多いと思う。
これは正解のある問題演習ばかりをこなしてきた弊害以外の何物でもない。その意味では最近の教員は大変かもしれないが、それ以上に本人達は、授業料を払って大学に来ていながら、非常に重要な学びと成長の機会を自ら放棄していることに気がついていない。
少し前になるが、ある課題を出したところ、近くの研究室の同僚にそのまま質問した学生がいた。たまたまその同僚と雑談をした際、「良い質問を持ちこまれ、思わずしっかり教えた」との会話になり、「あらら...」と感じた事は今でも覚えている。
※ ※ ※
課題解決において、このパターンを身に付けた学生は社会人になっても同様の行動をする。実際、筆者自身も、社会人1年目の頃、職場のある先輩から「わからなければ知っている人に聞け。それが最も早い。」と言われたが、そのアドバイスは失礼にならない程度に流し、週末を使い、意地になって自分で調べたことがある。時間はかかったが、職場で何年も「誤解されて」伝えられていた小さな重要事実を確認・修正することが出来た。
現場では、聞くことと調べることのどちらも重要であるが、あくまでも場合によるということを強く学んだ。その意味では、あえて遠回りするということを教えて頂いた複数の恩師に深く感謝している。
※ ※ ※
さて、このマシュマロ・テストの話を農業や農協に当てはめるとどうなるだろうか。生産性や効率性の上昇、目に見える短期的な成果、成功者のマネによる短期的な競争力の向上...、なぜ、もう少し長い期間と本質を捉えて考えないのか疑問に思うことが多い。
あるものが良いとなれば、皆、一斉に同じものを同じ方法で作る。組織改革の方法も皆、同じである。やや知っている人や組織が自分達よりその面で知識が少ない人や組織についてあたかも優位性があるように振る舞う。少し本気になって調べてみれば、底の浅さが露呈するような方法や言説が各所に出回っている。
「今のお前は実際のビジネスに携わっていないからそんな悠長なことを言えるのだ」という声もあるだろうが、基本は大昔から変わらない。目先の利益や課題だけにとらわれ、最も大切なものを蔑ろにする人や組織の寿命は短い。それは業界や組織の大小に関係ない。ある時期世界を席巻したわが国の多くの企業を見れば、極めて良い事例を提供していると言えるのではないだろうか。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
米の価格 前週比▲48円 3週連続下落 農水省調査2025年6月17日
-
【サステナ防除のすすめ2025】水稲の本田防除(1)育苗箱処理剤が柱2025年6月17日
-
【サステナ防除のすすめ2025】水稲の本田防除(2)雑草管理小まめに2025年6月17日
-
米 収穫量調査 衛星データなど新技術活用へ2025年6月17日
-
価格高騰で3人に1人が米の消費減 パンやうどん、パスタ消費が増加 エクスクリエの調査から2025年6月17日
-
【JA人事】JA中野市(長野県) 望月隆組合長を再任2025年6月17日
-
備蓄米の格安放出で農家圧迫 米どころ秋田の大潟村議会 小泉農相に意見書送付2025年6月17日
-
深刻化するコメ加工食品業界の原料米確保情勢【熊野孝文・米マーケット情報】2025年6月17日
-
2025年産加工かぼちゃ出荷販売会議 香港輸出継続や規格外品の試験出荷で単収向上を JA全農みえ2025年6月17日
-
2024年産加工用契約栽培キャベツ出荷販売反省会を開催 旬別出荷計画の策定や「Z-GIS」の導入推進を確認 JA全農みえ2025年6月17日
-
和歌山「有田みかん大使」募集中 JAありだ共選協議会2025年6月17日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第110回2025年6月17日
-
転職希望者対象に「農業のお仕事説明会」 6月25日と7月15日に開催 北海道十勝総合振興局2025年6月17日
-
「第100回山形農業まつり農機ショー」8月28~30日に開催 山形県農機協会2025年6月17日
-
北海道産赤肉メロン使用「とろける食感 ぎゅっとメロン」17日から発売 ファミリーマート2025年6月17日
-
中標津町と繊維リサイクル推進に関する協定締結 コープさっぽろ2025年6月17日
-
神奈川県職員採用 農政技術(農業土木)経験者募集 7月25日まで2025年6月17日
-
【役員人事】ノウタス(6月17日付)2025年6月17日
-
「九州うまいもの大集合」17日から開催 セブン‐イレブン2025年6月17日
-
農薬出荷数量は1.5%増、農薬出荷金額は2.8%増 2025年農薬年度4月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年6月17日