自民党の衰退は止まらない2017年11月6日
こんどの衆議院の総選挙で、自民党は支持を回復したように見える。しかし、実際はそうではない。野党が四分五裂になったので、自民党の衰退が止まったように見えるだけである。実際に衰退が止まったわけではない。
国民の意志を比較的忠実に反映する比例区の得票率をみてみよう。直近の国政選挙である昨年の参議院選挙と比べて自民党の得票率をみると、この1年間で35.9%から33.3%に下がった。つまり、2.6ポイント下がり、衰退を続けている。
昨年の参議院選挙は、野党の選挙協力の成功で、野党は善戦した。しかし、今度の衆議院選挙では、野党が分裂し、野党の得票が分散したので、自民党が、ことに、1人区で圧勝した。だから、自民党は衰退が止まったように見える。
しかし、詳しくみると、自民党は支持が下がったのに、圧勝したのである。
上の地図は、比例区をみて、今度の衆議院選挙で、県ごとの自民党の得票率が、前回の参議院選挙と比べて、どれほど下がったか、を示したものである。
得票率が増えた府県は京都、大阪、兵庫、奈良、山口の5府県だけで、他の42都道県では軒並み減った。
それでも自民党が圧勝した原因は、野党の分裂による選挙協力の失敗である。自民党が信頼されたわけでもないし、野党が見放されたわけでもない。
自民党の得票率が大きく減った県は、北海道、東北、四国、九州に多い。これらの県は、農業県である。つまり、自民党は農業者の信頼を失い続けている。
なぜか。
◇
自民党農政が農業者の信頼を失っている根源に、市場原理主義がある。
市場原理主義は協同を嫌う。農業者を1人1人に分断して、互いに競争させることを農政の基本におく。この考えに基づいて、農業者の協同活動を妨害する。つまり、農協攻撃である。その目的は、資本にとって邪魔な農協の解体にある。
それだけではない。資本は、市場原理主義の考えに基づいて、農地を取り上げ、農業を乗っ取ろうとする。そうして農業者を低賃金労働者に陥れようとする。
農業者は、こうした農政に反対している。協同は、経済的弱者が強者の横暴から避難する砦なのである。だから自民党は、協同活動を嫌い、市場原理主義農政に固執するかぎり、農業者からは支持されない。
◇
また、市場原理主義は、目先の利益の追求を至上目的にする。そのためには、環境を破壊し、資源を枯渇させることも厭わない。社会の宥和をも犠牲にする。食糧主権さえも放棄する。
農業のばあい、大規模化により、これらの全てを犠牲にして、資本のために目先の利益を追求しやすくする。しかし、農村社会の永続を願う農業者は、こうした市場原理主義農政に反対である。
その上、こうした農政を首相官邸に任せたフリをして、政治家が責任逃れをする。自民党農政が農業者から支持されない理由は、この不誠実さにもある。
◇
市場原理主義農政の国際版は、農産物の海外市場への開放である。自由貿易体制への信仰ともいえる傾斜である。TPP11への執念であり、日欧EPAへの執着である。
しかし、農業者は、自由貿易体制では、食糧の安定的供給という農業者の社会的責任を果たせない、と考えている。だから、自民党農政に反対している。
◇
自民党が、市場原理主義農政に固執するかぎり、農業者の支持は増えないだろう。このことは、野党にとって好機である。
もしも、野党が一致して、自民党農政の根本にある市場原理主義農政に対峙し、協同組合主義に基づく農政を高く掲げれば、農業者の、したがって農村の人たちの支持が集まるだろう。
もしも、野党が農村の、この実情を直視し、野党統一農業政策を作り、その実現のために協力しあい、それを基礎にして、つぎの国政選挙で選挙協力をすれば、野党は圧勝するだろう。
◇
野党統一農政の基本部分は、資本による農業の乗っ取り、農協への不当な攻撃、輸入自由化による食糧主権の放棄、これらを否定する政策になるだろう。
このような野党統一農政の策定は急務である。農村の人たちは、策定に参画することを含めて、大いに期待している。それは、野党の地方組織の強化にもなるだろう。
この期待に応えれば、自民党が衰退しているいま、野党は政権奪取の基礎固めができる。今日から、その策定作業に入ったらどうか。選挙が間近かになってからでは遅い。
◇
最後につけ加えよう。
筆者は反市場原理主義の考えのもとで、野党統一農政の策定に期待しているが、反市場原理主義を他人に押し付けるつもりは全くない。
いまの与党の農政に危機感をもって反対するのなら、どんな思想、信条に基づいて反対なのか、どんな理念、基本政策によって反対なのか、は問わない。
野党統一農政は、そうあるべきだろう。
(2017.11.06)
(前回 与野党逆転の試算)
(前々回 東京の民意は野党にある)
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